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ピンホイール・タイリング

1種類の直角三角形だけで平面を非周期に埋め、しかもタイルの向きが世代ごとに増えて閉じない。向きを増やしているのは回転ではなく裏返しである。

辺1:2:√5の直角三角形6,250枚で埋めた正方形。向きごとに生成りの濃淡と藍の濃淡で塗り分けられ、風車のように向きが散らばる
直角三角形 1 種類(辺 1 : 2 : √5)を 5 回置換して並べた 6,250 枚。色相はタイルの向き(arctan(1/2) の何倍回っているか)を表し、藍系は裏返したタイルを表す。同じ向きのタイルが集まって、風車の羽のように見える

なにか

ペンローズは 2 種類、Hat は 1 種類(と裏返し)のタイルで、平面を周期的に繰り返さないように埋めた。どちらもタイルの向きは有限で(ペンローズは 10 通り、Hat は 12 通り)、それ以上は現れない。ピンホイール(Conway と Radin、1994)はもうひとつ先を行く。辺 1 : 2 : √5 の直角三角形 1 種類だけで平面を埋めるのに、タイルの向きが世代ごとに増えて、どこまでも閉じない。「非周期」が並べ方だけでなく回転にも起きている。

身近な場所では、メルボルンの Federation Square(2002)の外壁がこのタイリングで覆われている。三角形 1 種だけの壁面なのに、見る距離によって違う模様が浮かぶのは、向きが無限にあるからである。

5 分割は 2 通りしかない。そして向きが増えるのは、そのうち 1 つだけ

左に1枚を5枚に割る図(藍は親の裏返し)、中に世代ごとの向きの数の棒グラフ(1,4,13,22,30,38,46,54)、右に a·arctan(1/2) が90°の倍数へ最接近するずれの表
左は 5 分割で、0.2 間隔の格子で総当たりすると見つかる組は 2 通りだけだった。図は Radin の組で、藍の 3 枚が親の裏返しである。中は世代ごとの向きの数(生成りが表、藍が裏返し)、右は a·α が 90° の倍数へどこまで近づくかを示す

置換の規則は「1 枚を、相似比 1/√5 の 5 枚に割る」である。どう割るか。親の三角形(直角の頂点 A、頂点 Q・B)の中に、辺 1:2:√5・斜辺 1 の三角形が 0.2 刻みの格子点の上に 34 枚置け、そのうち 5 枚で親を過不足なく覆う組は総当たりで 2 通りだけだった。使う頂点は同じ 4 点 (0.8,0.4), (1,0), (1.6,0.8), (1.8,0.4) で、組み方だけが違う(向きが増える方を、ここでは Radin の組と呼ぶ)。

いちばん面白かったのはここで、2 通りとも、5 枚の回転は全部同じだった(親から α = arctan(1/2) だけ回り、あとは 90° の倍数)。違うのは裏返しの混ざり方だけである。Radin の組は 5 枚のうち 3 枚が親の裏返しで、もう 1 つの組は 5 枚とも裏返しになる。ところが世代を重ねると、2 つの組は違う道をたどる。Radin の組は向きが 1 → 4 → 13 → 22 → 30 → 38 → 46 → 54 と増え続け(増分は 3, 9, 9 のあと 8 で一定)、もう 1 つの組は 4 で止まる。

理由は鏡にある。裏返したタイルの中では、回転の向きが逆になる(鏡に映した時計は逆回り)。表と裏が混ざる組では、n 世代後の回転が +α と −α の足し算 Σ(±α) になって −nα から +nα まで散らばる。5 枚とも裏返しの組では毎世代いっせいに符号が反転するだけなので、nα の 1 つに揃ってしまう。向きが増えるかどうかを決めているのは回転ではなく、裏返しが混ざるかどうかだった。

正直に書くと、最初に自分で導いた分割は、直角の頂点から斜辺へ垂線を下ろして 2 つに割り、大きい方を 3 辺の中点で 4 つに割るというものだった。これが後者(5 枚とも裏返し)そのものだった。作ってみたら向きが 4 で止まり、それで総当たりに切り替えて上のことが分かった。失敗した分割は対照として図に残してある。

閉じないことを数の側から見る

どのタイルの向きも a·α + b·90°(a, b は整数・|a| ≤ 世代)の格子に乗ることを、世代 0〜6 の全部の向きについて、別に整数で探して確かめた(外れは 0)。だから向きが有限で閉じるかどうかは、a·α がいつか 90° の倍数にぴったり戻るかだけで決まる。a を 10 から 100 万まで 10 倍ずつ振って、いちばん近づいたときのずれを見た。ずれは 4.3° → 0.47° → 0.065° → 0.0062° → 0.00072° → 0.000064° と、10 倍にするたびに約10分の1にしか縮まない。有理数なら a のどこかでずれが厳密に 0 になるので、これは「戻らない」側の数値である。

α/π が無理数であることは、Radin 自身の定理ではなかった。論文の p.664 は「0 と ±1 以外の有理数 r について tan⁻¹(r) は π に対して無理数である」という補題を置く。ただし証明は付けず、Niven と Zuckerman の教科書(第 6.15 定理・p.701 の参考文献 [5])から引いて、小さい角に当てている。論文はこの角を α ではなく S = tan⁻¹(1/2) と書く。Radin 自身の仕事は、有限個のタイルとマッチング規則だけで平面が敷き詰められることを示した側にある(p.694 定理 5.1)。ここで自分で確かめたのは、有限世代の向きの数と、上の最接近の数値までになる。

→ Hat タイル(向きが 12 通りで閉じる側・鏡映は 1/(3φ²) の割合で混ざる)

→ Hat の回折像(向きが有限だと、回折像に回転対称が現れる。ピンホイールの回折像が円対称に近づくかは、まだ見ていない)

どう作ったか

生成器は generators/pinwheel.js で、5 分割の表を持ち、親の三角形の枠(直角・長い脚・短い脚)に写して再帰的に割っていく。

出典

数理
C. Radin, "The pinwheel tilings of the plane", Annals of Mathematics 139 (1994), 661–702(web.ma.utexas.edu にある刷りを開いた)。この階層構造は J. H. Conway によるもので未発表だと p.662 に書いてある。分割の座標は文献を写さず 0.2 格子の総当たりで出したが、あとから論文 p.663 の 5 枚と突き合わせたところ、相似変換を戻すと 5 枚とも一致した(tools/explore/pinwheel-radin-compare.js)。ただし掲載版の p.663 は type D に type C と同じ頂点 (0,0), (2,0), (2,1) を印刷していて、そのままでは 4 枚しか埋まらない。面積と図 2 から D は (0,0), (2,0), (2,−1) で、これを入れると 5 枚がちょうど親を覆う
身近
Federation Square(メルボルン・2002)の外壁パネル
親戚
ペンローズ(向き 10 通り)・Hat(向き 12 通り・裏返しの混ざり方が置換で決まる)・Spectre(裏返しを使わない側)
生成
generators/pinwheel.js(pinwheel.svg 世代 5 の正方形・pinwheel-book.svg 帳簿)