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Resch パターン — 紙で曲面をつくる(角をためこむひだ)

Resch パターンの展開図。三角格子の中点細分・薄藍が剛体の面・粗い格子の頂点に3山3谷の星タック
Resch パターンの展開図。薄藍=折れずに残る剛体の面、生成り=タックの羽。実線=山、破線=谷。粗い格子の頂点ごとに6枚の羽が3山3谷で集まり「星タック」になる

なぜ包装紙はしわになるのか

ボールを包装紙で包もうとすると必ずしわが寄る。あれは不器用のせいではなく、定理のせいだ。ガウスの驚異の定理——曲げても伸ばさないかぎり、面の「ガウス曲率」は変わらない。平らな紙の曲率はゼロ、球の曲率は 1/R²。だから紙を球に貼ることは原理的にできない。しわは、余った紙の行き場だ。

では折り紙で曲面を作るにはどうするか。答えは「余りをきちんと畳んで裏に隠す」。裁縫のダーツがまさにそれで、平らな布に三角のつまみを入れて縫うと、体の丸みに沿う立体になる。餃子のひだも、ギャザースカートも同じ装置。Ron Resch(1960年代)はこの「ためこむひだ」を三角格子の全頂点に仕込み、平らな1枚の紙を任意の曲面に沿わせる方法を作った——それがこのパターン。

ダーツ=角を隠す最小の装置

左: 円板に6本のダーツを入れた展開図。右: 折り上がった円錐と等距離の輪
左=半径1の円板に半角10°のダーツを6本(茜のくさびが隠れる部分・実線が山・破線が谷)。右=折り上がり。隠した角の合計は 2nβ = 120°で、見えている面の頂点まわりは 360°−120° = 240°。茜の破線は頂点から等距離の輪——その周長は 2πr ではなく 240°分しかない

折り紙での曲率は角の欠損 δ = 2π − (頂点まわりの角の和)に宿る。δ=0 なら平ら、δ>0 なら錐(正曲率・ドーム)、δ<0 なら鞍(負曲率・レタスの縁)。ダーツを n 本、半角 β で入れて畳むと、見えている面の角はちょうど 2nβ 減る。紙を切らずに、好きなだけ曲率を作れる。

機械検査では、折り上がりで頂点から距離 r の円の周長が (2π − 2nβ)·r になることを6組の (n, β, r) で実測した(平面なら 2πr)。周長が半径に比例して足りない——これが正曲率の操作的な定義そのもの。ダーツ角を0にすると欠損も0になり、ただの平らな円板に戻る(片親に戻す対照実験)。

正確に言えば、折るのは等長変形なので紙そのものの内在的な曲率はどこまでいってもゼロ。曲がっているのは「見えている面」で、余りは裏に隠れている。裁縫のダーツも同じ意味で「曲面をつくる」。ここで測っているのは、隠したあとに残る表の面の曲率。

隠す角の総量は、形を決める前から決まっている

正二十面体を4回細分して球に射影した測地線ドーム。次数5の頂点を茜で示す
測地線ドーム(正二十面体を4回細分して球に射影・320面)。茜の点=5本しか辺が集まらない頂点。細分をどれだけ増やしてもこの点はちょうど12個。サッカーボールの五角形が12枚なのも、ウイルスの殻が20面体なのも、球状のフラードームが必ず五角形を12枚持つのも、全部この帰結

閉じた多面体では、角の欠損の合計が位相だけで決まる——Σδ = 2πχ(デカルトの定理=離散版ガウス・ボネ)。球なら χ=2 なので Σδ = 4π = 720°。つまりどんなドームを設計しても、隠すべき角の総量は 720°で固定。設計者に残された自由は「どこにどう配るか」だけだ。

測地線ドームは 720° を12点に集めるやり方(1点あたり60°)。細分を増やすと球に近づき、12点の欠損は 60° → 6.35° → 1.38° と痩せ、残りが全面の次数6の頂点に散っていく——それでも合計は 1e-12 の精度で 4π のまま動かない(細分1〜6回で検査)。Resch パターンは同じ 720° をタックに配るやり方で、こちらは「どこにどれだけ」を連続的に選べるから、球以外の曲面にも沿わせられる。

星タックは必ずねじれる

展開図の粗い格子の頂点には、60°の羽が6枚(合計ちょうど360°=紙は完全に平ら)が3山3谷で集まっている。この星タックの折り方を厳密に解いてみた。頂点から外周へ伸びる6本の折り線を単位ベクトル u₀…u₅ とすると、面が剛体である条件は ui·ui+1 = cos60° = 1/2 だけ(隣り合う折り線のなす角が保存されれば、面は伸びていない)。3回対称を課すと方位差は60°に強制され、残る式は

sinα·sinβ/2 + cosα·cosβ = 1/2

——1本だけ。つまり1自由度の族で、スライダー1本ぶんの動きになる(ミウラ折りと同じ)。ここで α=β(鏡映対称)を入れると cos²α = 0、すなわち α=90°=平らな状態しか解がない。平らでない星タックには、鏡映対称な状態が存在しない——タックは必ずねじれる(キラル)。

折り込むと外周の6点がなす三角形の一辺は √3 = 1.7321 から 0.8660 まで単調に縮む。この縮みが「ためこんだ紙の量」。一様に折れば折り上がりも周期的になり、面は平らなまま小さくなる(2方向の並進で不変な面は全体として曲がれない)。曲がるのは、縮み方を場所ごとに変えたとき——それが Resch の設計変数になる。

正直に書いておくと、面全体の折り上がりはまだ計算していない。ここで厳密に解いたのはタック1つぶんの折り空間まで。タックを場所ごとに変えて任意曲面に沿わせる一般解は Tachi (2013) にあり、当ギャラリーでの再実装は宿題。

どう作ったか

展開図は間隔1の三角格子と、その偶数点だけを取った間隔2の粗い格子から作る。3頂点とも中点である三角形=中三角形(剛体の面)、粗い頂点を含む三角形=タックの羽。数えると羽:面 = 3:1 になる。山谷は粗い頂点から出る6方向の偶奇で交互に割り当てる(この規則だけで全タックが自動的に3山3谷になる)。

機械検査は17件。①中三角形72枚が全て一辺1の正三角形(6.7e-16)②羽:面 = 3:1 ③内部タック25本すべて3山3谷 ④内部頂点121点すべてで角の和 = 2π(この展開図はどこも平らな紙だという証明)⑤ダーツの隠し角 = 2nβ ⑥くさびの両隣が折り上がりで一致(1e-12)⑦見えている面の円周 = (2π−2nβ)r(6組)⑧β=0 の対照 ⑨Σδ = 4π(細分1〜6回・1e-12)⑩次数5の頂点がちょうど12個・他は全て次数6 ⑪δ5 が 60°→1.38° と痩せても総量不変 ⑫星タックの剛体条件が族全体で 1e-12 ⑬鏡映対称は平らな状態だけ ⑭外周の縮みが単調 ⑮出荷SVG3枚。

→ ミウラ折り 立体(同じ「1自由度の剛体折り」・こちらは平らなまま畳む)

→ 双曲タイリング {7,3}(角の欠損がマイナス側=レタスの縁の世界)

→ ハニカム(平面での「平均6」。ドームの12個の五角形はその破れ)

→ ハサミムシの扇(折り上がりから設計するという同じ作法)

出典

数理
Ron Resch, US Patent 3,407,558 (1968)。一般化と剛体折りの理論は T. Tachi, "Designing Freeform Origami Tessellations by Generalizing Resch's Patterns", J. Mech. Des. 135 (2013) 111006。角の欠損の総和はデカルトの定理(1630年代・ガウス・ボネの離散版)。驚異の定理は C.F. Gauss, Disquisitiones generales circa superficies curvas (1827)
生成
generators/resch.js(展開図の分類と山谷割り当て・ダーツの円錐への等長写像・正二十面体の細分と球への射影・星タックの剛体折り族の閉形式)