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手毬の地割り

手毬の組み合わせ 10 等分で巻く糸 15 本は、正二十面体の鏡映面と同じ位置にある。だから球は鏡で分けた最小の部屋 120 に割れる。その網は測地線ドームの Class II と一致する。糸 1 本の弧の長さは 3 種類しかない。

組み合わせ 10 等分の手毬。15 本の大円が藍・茜・砂の 3 色で球に巻かれ、5 本が集まる極に黒い点、3 本が集まる点に茜の点がある
組み合わせ 10 等分の手毬。15 本の大円を、上の極との傾きで 3 色に分けた。藍は極を通る 5 本、砂は赤道から 31.7° 傾いた 5 本、茜は 58.3° 傾いた 5 本で、裏側の糸は薄く描いた。黒い点は 5 本の糸が集まる極(12 のうち見えているもの)、茜の点は 3 本が集まる点である。

なにか

手毬は、綿や籾殻を丸めた芯に糸を巻き、その上に色糸で模様をかがる玩具である。模様をかがる前に「地割り」で球を等分する。北極と南極を決め、赤道と極を通る糸で分ける単純 n 等分と、極を複数決めて極どうしを通る糸を全部巻く組み合わせ 8 等分・組み合わせ 10 等分がある。日本てまりの会は、尾崎千代子『創作てまり 2 集』(マコー社、1980)を「8 等分および 10 等分の組合せの地割り方法」を載せた本として紹介し、組み合わせ 8 等分を「6 箇所の均等な地点がそれぞれ 8 等分されて出来ています」と説明している。ここでは組み合わせ 10 等分の極を 12 個とし、正二十面体の頂点の位置に置いた(手毬の資料で極の数は確かめていない)。

ここでは地割りを「極の集合を与え、反対でない極の対を通る大円をすべて巻く」という規則にした。単純 8 等分は北極・南極と赤道の 8 点から、極を通る大円 4 本と赤道の 5 本が出る。組み合わせ 8 等分は正八面体の頂点 6 と、隣り合う 3 極の真ん中の 8 点(立方体の頂点)から 9 本が出る。組み合わせ 10 等分は正二十面体の頂点 12 から 15 本になる。糸の本数は実測で 15 本になった。正二十面体の対称面が 15 枚あることは、Klein の『正二十面体講義』(1884)の p.20 にある。

糸 15 本は鏡映面 15 枚

3 つの地割りの球と帳簿の表、120 分の 1 の三角形の角、正二十面体の面の重心分割、糸 1 本の弧列
上に単純 8 等分・組み合わせ 8 等分・組み合わせ 10 等分の 3 球を置き、大円・交点・辺・面・角・面積・群の位数を帳簿にした。下は左から、120 分の 1 の三角形とその角を示し、正二十面体の面の重心分割と突き合わせ、糸 1 本を弧に切って並べた。

15 本の大円は、どれも 12 の極を鏡映で自分自身に写す。つまり糸は正二十面体の鏡映面である。15 枚の鏡映を掛け合わせて閉じるまで数えると、群の位数は 120 になる。糸どうしの交点は 62 で、5 本の糸が集まる点が 12、3 本が集まる点が 20、2 本が交わる点が 30である。交点を頂点、糸の弧を辺として面を実際に組み立てると、辺 180・面 120 で、オイラーの式 V − E + F = 2 が成り立つ。

120 の面は全部が三角形で、全部が合同、角は 90°・60°・36°である。角は点の型で決まり、5 本が集まる点で 36°、3 本で 60°、2 本で 90° になる。角の和は 186° で、180° を超えた 6°(π/30)がこの三角形の面積になり、120 枚で球面の 4π をちょうど埋める。これは鏡映群の基本領域で、Schwarz が角 ½π・⅓π・⅕π の球面三角形として扱ったものにあたる。Klein 1884 の p.21 も、球面が 120 の三角形に分かれると書いている。この三角形は球面を鏡で分けた最小の部屋である。

ほかの地割りも同じ帳簿で並べた。組み合わせ 8 等分は大円 9 本、交点 26(4 本の点 6・3 本の点 8・2 本の点 12)、面 48 で角は 90°・60°・45° になり、群の位数は 48 である。単純 8 等分は大円 5 本、交点 10、面 16 で角は 90°・90°・45° になり、位数は 16 である。3 つの地割りとも、面の数は糸の鏡映が生む群の位数に等しい。単純 8 等分から赤道を外すと面は 8 個の二角形(頂点が 2 つの月形)になり、赤道がそれを三角形に割る。単純等分の三角形だけが二等辺で、これは糸と糸の間に糸のない鏡映面が残るからである。組み合わせの三角形は不等辺で、糸が鏡映面を全部使い切っている。

測地線ドームと同じ網

正二十面体の 20 の面を、面の中心と 3 辺の中点で 6 つに割り(重心分割)、頂点を球へ押し出すと、頂点は 12 + 30 + 20 = 62、三角形は 120 になる。この 62 点と 10 等分の交点 62 は 1e−9 で一致し、頂点は 5 本の点、辺の中点は 2 本の点、面の中心は 3 本の点に対応した。120 の三角形も面として一致する。手毬の 10 等分の網は、正二十面体の面を 3 本の中線で割って球へ押し出した網そのものである。測地線ドームではこの系統の割り方を triacon と呼び、Fuller の特許 US 3,197,927(1965)も「業界で 6v triacon として知られる割り方」と書いている(名づけたのは Fuller ではない)。ドームの Class II という分類名の原典は開いていない。棒(弦)の長さは 3 種類で、Class I の ν = 2(面を辺で 2 等分する割り方)とは網が違うが、5 本の棒が集まる頂点が 12 なのは同じである。

→ 測地線ドーム(Class I・5 本の頂点はちょうど 12 個)

糸 1 本の弧

糸を 1 本だけ追うと、交点で 12 の弧に切れる。弧の長さは 20.91°・31.72°・37.38° の 3 種類で、並びは半周(6 弧)で繰り返し、15 本とも同じ列になる。糸は他の 14 本と 2 回ずつ、合計 28 回交差するが、5 本が集まる点では 4 本と、3 本の点では 2 本と一度に交わるので、交点の数は 12 で済む。31.72° の 2 倍は正二十面体の辺の弧 63.43° で、3 種類の和は 90° になる。2 本が交わる点は 1 本の糸の上に 90° おきに 4 つ並ぶからである。数字を出す前の見立ては「12 の弧・3 種類・半周で繰り返す」で、実測と一致した。

→ 家紋の対称群(ひとつの図形には結晶学的制限がかからない)

→ 和柄の対称群(17 群と結晶学的制限)

どう作ったか

生成器は generators/temari.js で、極の集合から大円(法線)を集め、鏡映行列の閉包で群の位数を数え、大円の対の交点を集めて通る本数を数え、大円ごとに交点を角度で並べて弧(辺)を作り、各頂点で半辺を接平面の角度で並べて面をたどった。面の角は隣り合う半辺の扇の角、面積は角の超過で出した。正二十面体の面の重心分割は別に組み立て、頂点と面を突き合わせた。描画は正射影で、裏側の糸は薄くした。依存も乱数も使っていない。

出典

身近
手毬の地割り。単純等分・組み合わせ 8 等分・組み合わせ 10 等分(名前は日本てまりの会の頁による。極の数は幾何から決め、ここでは「極の対を通る大円を全部巻く」という規則だけを使った)
数理
角 ½π・⅓π・⅕π の球面三角形は H. A. Schwarz, J. reine angew. Math. 75 (1873) 292〜335 を再録した『全集』第 2 巻(1890)の p.253 で、球面が 120 の三角形に分かれることと 15 の対称面は F. Klein, Vorlesungen über das Ikosaeder(1884)の pp.20〜21 で読んだ(どちらも archive.org)。triacon の呼び名は Fuller の特許 US 3,197,927。ここで確かめたのは自分の計算の一致である
親戚
測地線ドーム・家紋の対称群・和柄の対称群・Resch パターン
生成
generators/temari.js(temari.svg 組み合わせ 10 等分の手毬・temari-book.svg 帳簿。依存ゼロ・乱数ゼロ)