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測地線ドーム

公園にある球形のジャングルジム、レーダーや天文台の丸い屋根。どれも三角形で球を組んでいる。作り方は「正二十面体の面を ν 等分して、その頂点を球へ押し出す」だけである。刻みをいくら細かくしても 5 本しか棒が集まらない頂点は 12 個のまま動かない(これは当ギャラリーの発見13で角の欠損の総量として書いた話で、ここでは実測で確かめ直す)。新しいのはその先で、切るべき棒の種類が、対称から数えた種類より少なくなる刻みがある。

生成りの地に、球面を覆う三角形の骨組みを正射影で描いた図。棒は長さごとに濃い藍から淡い藍まで塗り分けられ、5 本だけが集まる頂点に赤い点が打たれている
ν=6 のドーム(面 720 枚・棒 1,080 本)。色は棒の長さの類(濃い藍が短く、淡い藍が長い)。赤い点が「5 本しか集まらない頂点」で、これがもとの正二十面体の 12 頂点にあたる。奥側の棒は薄く描いた。

なにか

球を三角形で覆いたい。正多面体でいちばん面が多いのは正二十面体(面 20 枚)だが、これでは球にはほど遠い。そこで各面を ν 等分の三角格子に刻み、できた頂点を中心から球面へ押し出す。この作り方は G. W. Hart の Goldberg Variations(Shaping Space 第 2 版の草稿)にもあり、各辺を k 等分したものを「k 振動数の二十面体」と呼んでいる。刻んでから押し出す順番のこの作り方を、ここでは Class I と呼ぶ(ドームの作り方を Class I・II・III に分ける呼び方は Kitrick 1990 の題名にもあるが、その定義の本文は開いていない)。ν を刻みの数と呼ぶことにすると、頂点は 10ν²+2 個・棒は 30ν² 本・面は 20ν² 枚になる。ν=6 なら 362 頂点・1,080 本・720 枚である。

この作り方は Buckminster Fuller の測地線ドームとして知られる。Fuller の米国特許 2,682,235(1951 年出願・1954 年登録)は「球面の正二十面体の面の上に格子を作り、20 枚の等しい球面三角形の辺をそれぞれ等分する」と書いている。ただ、細分した正二十面体のドームはそれより前に、1920 年代にイェーナのツァイス工場の屋上で W. Bauersfeld がプラネタリウムに使っていた。ここで確かめたのは名前ではなく、次の 3 つである。数の帳簿が式どおりか、5 本の頂点が本当に 12 個から動かないか、棒は何種類要るか。

5 本の頂点はちょうど 12 個

ν=1・2・3・6 の球を並べた図、刻みごとの頂点・辺・面・オイラー標数・5 本の頂点の数・双対の面の数・対称の軌道・弦の種類・最長最短比の表、ν=6 の弦の長さのヒストグラム、双対の多面体 3 つ
上段が刻み ν=1・2・3・6 の球。中段が数の帳簿(式と実測を並べた表)。下段が ν=6 の棒の長さの分布と、双対(面の中心をつないだ形)。

ν=1 から 12 まで作って数えると、5 本の棒しか集まらない頂点はすべての刻みでちょうど 12 個で、残りの頂点は全部 6 本だった。これは偶然ではなくオイラーの式の帰結で、当ギャラリーでは発見13(曲率は総量が先に決まっている・Resch のタックの号)で角の欠損の総量 Σδ = 720° として書いた。三角形だけで閉じた球面を作ると、各頂点について「6 本に足りないぶん」を全部足すと必ず 12 になる。だから 5 本の頂点(1 本足りない)が 12 個か、4 本の頂点(2 本足りない)が 6 個か、といった組み合わせしか許されない。正二十面体の細分では前者になる。

裏返して見るとわかりやすい。面の中心をつないだ形(双対)を作ると、五角形 12 枚と六角形 10ν²−10 枚になり、七角形も四角形も出ない。サッカーボール(切頂二十面体)が五角形 12 枚・六角形 20 枚なのと同じ勘定である。サッカーボールは刻み方が違う仲間なので六角形の数は一致しないが、五角形 12 枚だけはどの刻みでも共通している。

棒は何種類切るか

球に押し出すと、平面では合同だった三角形が歪む。棒の長さは 1 種類では済まない。ν=6 では 1,080 本が 9 種の長さに分かれ、いちばん長い棒と短い棒の比は 1.3325 だった。この比は刻みとともに単調に増える(ν=1 で 1.0000・ν=12 で 1.4080)。ドームのキットが「A 材・B 材・C 材」と何種類にも分かれて届くのは、この歪みのぶんである。

種類の数は ν の増加に対して単調ではない。ν=8 では 20 種要るのに、ν=9 では 18 種で足りる。細かくしたのに部材の種類が減る。

種類が対称より少なくなる刻みがある

なぜ減るのかを、長さとは別の物差しで測った。正二十面体の対称(回転 60 個+鏡映を入れて 120 個)で棒を分類し、互いに移り合う棒を 1 つの軌道と数える。同じ軌道にいる棒は必ず同じ長さだから、長さの種類は軌道の数以下になる。両者が一致すれば「長さの違い=形の違い」で、食い違えば形は違うのに長さが同じ棒があることになる。

ν=1 から 15 まで両方を数えた。ほとんどの刻みでは一致する。食い違うのは ν が 3 の倍数のときだけで、ν=3 で 4 軌道が 3 種に、ν=6 で 12 軌道が 9 種に、ν=9 で 25 軌道が 18 種に、ν=12 で 42 軌道が 30 種に、ν=15 で 64 軌道が 45 種に落ちる。減るのは 1・3・7・12・19 本ぶんである。

丸めの産物ではない。ν=3 でいえば、棒 60 本の軌道と棒 30 本の軌道の長さが、小数 15 桁まで同じ数(0.403548212335198)になる。小数 12 桁で数え直しても種類の数は変わらない。対称では決して移り合わないのに、長さだけがぴたりと一致する棒の組があるということである。

なぜ 3 の倍数なのかは追っていない。ν が 3 の倍数のとき面の中心が格子点になる、という事実はあるが、それが一致の理由だと確かめたわけではない。ここで言えるのは「ν=1 から 15 では 3 の倍数のときだけ起き、一致は 15 桁で厳密」というところまでである。作る側からすれば、対称の勘定より少ない種類の棒で済むという得だけが残る。

どう作ったか

球
generators/geodesic.js。正二十面体は 12 頂点を最短距離で結んで辺と面を起こす。各面の中を重心座標で ν 等分し、頂点を丸めた鍵で突き合わせて重複を潰してから球へ正規化する。
対称
ある頂点とその隣の組を別の組へ移す直交行列を作ると、それだけで 60 個の回転が尽きる。−I(点対称)を掛けて 120 個。行列が 12 頂点の集合を保つことを毎回確かめている。
軌道
棒に 120 個の対称を全部当て、移り合う棒を素集合データ構造でつないで軌道を数える。
検算
球面三角形の面積(ジラールの定理=内角の和 − π)を全部足すと 4π になることを、押し出した先が本当に球であることの独立な確かめに使っている。

検査

全頂点は単位球の上にあり、どの辺もちょうど 2 つの面に共有され、面積を足すと 4π になる。ν=2 の長い弦は 1/φ ちょうどになる。

出典と権利

数理
細分して球へ押し出す作り方は G. W. Hart, Goldberg Variations(georgehart.com の草稿)の p.4。Fuller の特許は US 2,682,235 Building Construction(Google Patents で本文を読んだ。請求項 1 は「大円の弧に近い測地線の模様で、ほぼ正三角形の 3 方向の格子を作る球形の骨組み」)。Bauersfeld のドームが先だったことは G. Brinkmann ほか, arXiv:1705.02848 の p.6(「最初の測地線ドームは 1924 年ごろイェーナのツァイス工場の屋上の仮設プラネタリウムと考えられている。Fuller は約 20 年後にこの考えを再発明した」)による。年は資料で 1922〜23 年とするものもある。「三角形だけの閉曲面では 6 本に足りないぶんの合計が 12」はオイラーの多面体定理からの帰結で、ここでは実測で確かめている。球面三角形の面積はジラールの定理。
身近
公園の球形ジャングルジム・プラネタリウム・サッカーボール(身近な例として挙げた)。実物の寸法は測っていない。
親戚
Resch のタック(発見13・角の欠損の総量)・ハニカム・双曲タイル・双曲ボロノイ(発見9)
生成
generators/geodesic.js(geodesic.svg カード・geodesic-book.svg 帳簿)

つながり: Resch のタック(親・発見13)・見取り図の発見83