家紋の対称群
家紋はひとつの図形なので、対称群は回転だけの C_n か、回転と鏡映の D_n のどちらかである。壁紙群には無い 5 回・8 回・16 回の対称が家紋には普通にあり、巴・卍・井桁・違い鷹の羽は手(向き)を持つので鏡映を持てない。同じ紋を格子に敷くと、格子の制限がかかって群が落ちる。
なにか
家紋は家の印で、桔梗・梅鉢・巴・卍・亀甲・菊のように、植物や器物や記号を丸い枠に収めた図形である。和柄の対称群では、繰り返す模様の対称が 17 種類の壁紙群のどれかに入り、回転は 1・2・3・4・6 回しか許されないこと(結晶学的制限)を確かめた。家紋は繰り返さない。ひとつの図形の対称群は、回転だけの巡回群 C_n か、回転と n 本の鏡映を持つ二面体群 D_n のどちらかしかない。有限の図形を保つ等長変換は図形の重心を動かさないので、重心を中心とする回転と重心を通る鏡映だけになり、その有限の群は C_n か D_n に限られるからである(Leonardo の定理と呼ばれるが、その呼び名の出典にされる Weyl の Symmetry は開けていない)。n に制限はない。だから桔梗や梅鉢の 5 回対称や、菊の 16 回対称が家紋には普通にある。
ここでは 16 の型を規則で作り直し(特定の紋帳や特定の家の図版は写さない)、それぞれを印の集合にして、回転と鏡映を機械で総当たりして群に落とした。同定されるのは規則のほうで、実物の紋ではない。
16 の型と群
印の集合を、2π/n の回転(n = 24 から 2 まで)で自分に重なるかを調べて回転の位数を決め、0.25° 刻みの 720 方向の鏡映で自分に重なる軸を数える。答え合わせには正 n 角形の頂点(D_n になるはず)と、頂点の片側に印を付けた点列(鏡映が消えて C_n になるはず)を使い、n = 3・5・7・8・16 で全部そのとおりになった。
16 の型は全部が見立ての群に落ちた。桔梗と梅鉢は D5、九曜は D8、十六葉菊は D16で、壁紙群には無い位数が 3 つ出る。亀甲は D6、三つ葉葵は D3、丸に十字と木瓜は D4、菱は D2、桐は左右対称だけの D1 になる。左三つ巴・右三つ巴・二つ巴・卍・井桁・違い鷹の羽の 6 型は鏡映が 0 本で、C3・C3・C2・C4・C4・C2 に落ちる。巴は尾の巻く向き、卍は腕の折れる向き、井桁と違い鷹の羽は帯の上下(織り)が手になっていて、鏡に映すと別の紋になる。左三つ巴を鏡映すると右三つ巴に重なり、自分自身には重ならない。
格子に敷くとどうなるか。紋を単位格子に並べてテーベの天井の号の判定機(和柄の検査機を 17 群の判定表に落としたもの)にかけた。桔梗(D5)を正方格子に敷くと、5 回はもちろん 2 回の回転も残らず、格子と紋が共有する鏡映 1 方向だけの pm に落ちる。亀甲(D6)を六方格子に敷くと p6m のままで、対称は 1 つも落ちない。卍(C4)を正方格子に敷くと p4 で、これは紗綾形(卍つなぎ)の群にあたる。左三つ巴(C3)を六方格子に敷くと p3 になる。手は格子に敷いても残り、鏡映は戻らない。
どう作ったか
生成器は generators/kamon.js で、16 の型を「印の集合を返す規則」として書き、描画も同じ規則・同じ寸法で描いた。巴は古典の作図で描いた。尾の外側の縁は中心から半径 0.41 の円弧で、頭の円(半径 0.16)はその弧に内接する。尾は内側の縁が角度 1.7 rad 巻くあいだに弧まで上がり、太さを 0 に絞る。頭と尾の継ぎ目が接点になるので、角が立たない。井桁と違い鷹の羽の上下は、交点の印を上の帯に沿って 2 つ置くことで手として持たせた。有限図形の判定(回転の位数・鏡映の軸)は自前で、格子に敷いたときの判定は generators/thebes-ceiling.js の classify を借りた。
出典と権利
- 身近
- 家紋(桔梗・梅鉢・巴・卍・井桁・鷹の羽・葵・亀甲・九曜・菊・十字・木瓜・菱・桐)。型の名前は一般名で、特定の家の紋・特定の紋帳の図版は写していない。ここにある 16 の図は規則から描き直したものである
- 数理
- 平面のひとつの図形の対称群が C_n か D_n であることは、本文に書いた理由による(Weyl の Symmetry(1952)は貸出制限で開けなかった)。壁紙群の 17 種類と結晶学的制限は和柄の対称群で確かめた。ここで確かめたのは、印の集合の対称操作の総当たりと、格子に敷いたときの判定である
- 親戚
- 和柄の対称群・テーベの墓の天井・Spectre(片手性)・ミトラの階段雷文・畳の敷き方・紋切り遊びと一刀切り・算額の不変量・手毬の地割り・丸台の組紐と置換の位数・水引の結び・麻の葉の平坦折り
- 生成
- generators/kamon.js(kamon.svg は 16 の型、kamon-book.svg は帳簿。格子の判定には generators/thebes-ceiling.js を使った。乱数は使っていない)