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黒点の蝶形図

1874 年から 2026 年までの黒点の記録を、時間を横、緯度を縦にして塗り直した。黒点は 11 年ほどの周期ごとに高い緯度で現れて赤道へ下がり、蝶の羽の形を描く。羽の下がり方を 26 枚で測ると、中央値は極小の時の緯度 27.3°、7.7 年で 1/e になる指数の形で、Hathaway が 2011 年に示した 28°・7.5 年に近かった。緯度だけのダイナモ模型も同じ形の道で下がり、羽の高さは、模型の α を緯度 10〜15° に集めたときに観測と重なった。

生成りの地に、緑と茜の細かい縦の筋が集まって横向きの羽の形をつくり、上下対になって 3 段に並ぶ図
1874〜2026 年の黒点を、約 50 年ずつ 3 段に折った。各段の横線が赤道で、上が北、下が南(±45°)。濃いほど黒点の面積が大きい。色は周期の偶奇で、緑と茜が交互に並ぶ。

なにか

Maunder は 1904 年の論文の p.760 で、1877〜1902 年の黒点を自転 1 回ごとに並べた図 8(Plate 16)を示した。黒点の中心が入った緯度 1° ごとに線を引いた図で、面積は数えていない。同じ頁で Maunder は、どちらの半球にも動く帯は 1 つだけで、分布の形は「hollow wedge」(中空の楔)だと書いている。Hathaway は 2011 年の論文の p.1 で、Maunder の 1904 年の発表を「Butterfly Diagram」の発表と書いている。

ここでは、自転 1 回(27.2753 日)と緯度 1° のます目ごとに黒点の面積を足し、濃さを面積の平方根にして塗った。周期の偶奇で色を分けると、羽が 1 枚ずつ見分けられる。150 年を横に並べると細長くなるので、表紙では約 50 年ずつ 3 段に折った。

→ トンボの羽の網目(実物のデータと数理の模型を突き合わせる)

→ セミの素数周期(周期をもつ生き物)

記録と区切り

記録は Hathaway が公開している黒点群の表で、1 行が 1 日の 1 群にあたる。ページの説明では、1874 年 5 月から 1976 年までは王立グリニッジ天文台がまとめた測定で、そのあとの USAF と NOAA の測定は、Hathaway が前の書式に合わせて書き直した。使った行は 260,398 行ある。

ページには、蝶形図と月ごとの平均などの派生ファイルでは 1977 年からの面積を 1.4 倍している、と書かれている。年ごとのファイルの面積を月ごとに平均して派生ファイルと比べると、比は 1976 年までが 1.000(1,069 か月)、1977 年からが 1.400(524 か月)だった。年ごとのファイルは測ったままなので、ここでも 1977 年からを 1.4 倍した。Hathaway の蝶形図の元の数(緯度の sin で等分した 50 の帯)とも比べ、2,015 自転で相関 0.996 になった。

周期の境目は、SILSO(王立ベルギー天文台)の表から取った。13 か月の移動平均の月の黒点数で決めた極小で、周期 12 は 1878 年 12 月、周期 25 は 2019 年 12 月に始まる。極小のころは新しい周期の羽と古い周期の羽が同時に出ているので、極小の前後 2 年の黒点を緯度で数え、いちばん空いている緯度に線を引いて分けた。

羽は同じ道を下がる

緑と茜の滑らかな羽が赤道をはさんで上下対に 6 組並ぶ模型の図と、観測の羽を測った表、観測と模型を並べた表、見立ての当たり外れの表
上は模型 m=24 の羽を 6 周期。下は観測の羽を測った数、観測と模型を同じ物差しで並べた表、見立ての当たり外れ。

羽 1 枚ごとに、自転ごとの面積の重心の緯度を、極小からの時間で並べた。周期 12〜24 の南北 26 枚の羽に λ=A exp(−t/τ) を当てると、τ の中央値は 7.7 年、A は 27.3° だった。極小から 1 年の重心は 24.2°、次の極小の前 1 年は 6.5° まで下がる。境目の引き方を 4 通りに替え、窓と帯の幅も振ったが、τ の中央値は 7.2〜7.8 年、A は 26.8〜27.9° から出なかった。

Hathaway は 2011 年の論文の p.8 の式 (4) で、重心の道を 28° exp[−(t−t0)/90] と書いた。p.9 によると t は月で数えるので、90 か月は 7.5 年にあたる。t0 は、p.6 の式 (2)(3) の関数を月ごとの黒点数に当てて決めた周期の始まりで、要旨(p.1)によると極小から最大 8 か月ずれる。ここでは t0 のかわりに SILSO の極小から測ったが、τ も A も Hathaway の値に近かった。

指数のほうが直線より合う羽は 26 枚中 23 枚あった。ただ、当てはめの残りの中央値は指数 2.67°、直線 2.75° で、差の 0.08° は自転ごとの重心のばらつき(約 2.7°)よりずっと小さい。観測だけでは、指数と直線を言い分けにくい。

いちばん外れたのは周期 24 の北で、τ 9.9 年・A 20.9° と、26 枚の中でいちばん遅く低かった。同じ周期の南は τ 7.8 年・A 27.3° で道に乗る。周期 24 の北は、境目の線が探した範囲の下の端(8.5°)に来た羽でもあり、分け方のせいかどうかは確かめていない。

南と北

同じ周期の南北で比べると、面積の比(北/南)は 0.69〜1.45 と周期ごとに大きく動いた。下がり方は南北で近く、τ の差の中央値は 0.43 年、A の差は 2.5° だった。ただし 1 つの周期の中では、τ が最大 2.5 年ずれることもある。

羽の重なりは、測り方で決まってしまう

Maunder は p.761 で、どちらの半球にも黒点の帯は 1 つしかなく、例外は極小のすぐあとに 2 つの周期が重なる短い時期だけだと書いている。その重なりの長さを測ろうとした。

分けた羽の初めと終わりで測ると、窓の幅を 2 年・2.5 年・3 年と広げるにつれて、重なりの中央値は −0.2〜1.1 年、1.4〜2.1 年、2.6〜3.0 年と伸びた。緯度のしきい値で新旧の黒点を分けると 4〜8 年になり、面積の量で測ると −2.7〜+2.4 年と符号まで変わった。羽の下がり方は分け方によらない丈夫な数だったが、重なりは、羽どうしの境目をどこに引くかで決まる数だった。

緯度だけのダイナモ模型

模型は、Moss・Sokoloff・Lanza の 2011 年の論文の p.4 にある Parker の 1 次元の模型にした。式 (3)(4) は、余緯度 θ だけの関数として、トロイダル場 B とポロイダル場のベクトルポテンシャル A を時間で進める。同じ頁で、µ≈3 が太陽の対流層にあたるとし、α=cosθ sin^m θ を m=0・2・4 で置き、m が大きいほど α が赤道のまわりに集まると書く。p.5 では、D<0 で波は赤道へ進み、m を大きくすると移動は赤道に近づくと書く。

θ を 181 点に分け、f=1、µ=3、双極子の対称で解いた。B が強くなりすぎないよう、α を α/(1+B²) で頭打ちにした。この形は同じ論文の p.3 が 2 次元の模型に使っているものを借りた。D は、波が育ちも減りもしない値 Dc の 1.1〜3 倍にした。

物差しは観測と同じにした。北半球の B² を黒点の面積の代わりにし、全体の B² の谷を極小として周期を切った。模型の 1 年は周期の 1/10.84 にした(観測の周期 12〜24 の平均が 10.84 年)。はじめは羽を分けずに重心を出したが、新旧の羽がいつも並んでいて、重心がほとんど下がらなかった。そこで、極小のあとに育つ羽の磁場の向きを決め、その向きの B² だけで重心を出した。観測で決められなかった新旧の分け方を、模型では磁場の向きで外から決めたことになる。

m=0〜6 の羽は、観測よりおよそ 10〜20° 高い所を下がった。m を 8・12・16・24 と上げると羽は下がり続け、m=16〜24 で、始まりと終わりの緯度と A が観測に重なった。α=cosθ sin^m θ がいちばん大きくなるのは tan²θ=m の所で、緯度にすると m=16 で約 14°、m=24 で約 11.5° になる。Moss らが置いた m は 4 までで、16 や 24 は観測の高さに合わせるために広げた値である。

下がり方の形は、40 通りすべてで指数のほうが直線より合った。τ/周期は、臨界に近い D=1.1Dc で 0.69〜0.87 になり、観測の 0.71 に近い。D を Dc の 3 倍まで上げると、どの m でも羽は数度高くなり、τ/周期は 1.1 前後まで伸びて下がり方が遅くなった。臨界に近いほど観測に近い。羽の高さは α の置き方で決まり、指数で下がる形は α によらず出る、という分かれ方になった。

観測の羽と模型の羽の違い

上の図の模型の羽は、|B| が最大の 1 割を超える所だけを塗っても途切れず、隣の羽と接して並ぶ。表紙の観測の羽は、極小のころに薄くなり、羽と羽のあいだが空く。この違いは目で見ただけで、数では測っていない。

見立て

測る前に見立てを 5 つ決めた。1 つ目は、2024 年までのデータで描き直しても、羽は 13 回以上繰り返し、どの羽も中空の楔になる、だった。そろった羽は周期 12〜24 の 13 枚で、どれも高い緯度で始まって赤道へ下がる楔だったので、当たりである。中の空き方は数では測っていない。

2 つ目は、重心の緯度は Hathaway の 28° exp[−(t−t0)/90] に乗る、だった。τ 7.7 年・A 27.3° で近く、おおむね当たりとした。周期 24 の北だけが遅く低い。

3 つ目は、隣り合う羽は重なり、重なる長さは周期によらず 1〜2 年、だった。重なりの長さは測り方で 0 年から 8 年まで動いたので、判定できない。

4 つ目は、模型は m=0 で羽が極まで伸び、m を大きくすると下がり方が直線に近づく、だった。m=0 でも羽は極まで伸びず、時間で均した B² の 95% は緯度 9〜57° に入った。どの m でも指数のほうが合ったので、外れである。

5 つ目は、北と南の羽の形は同じ道に乗るが、面積の大きさは半球で違う、だった。下がり方は南北で近いが、1 つの周期の中ではずれることもあり、半分当たりとした。

どう作ったか

生成器は generators/butterfly.js で、羽の測り方は tools/explore/butterfly.py(観測)と parker.py(模型)にある。tools/explore/butterfly-data.py が、表紙のます目・模型の羽・測った数を generators/data/butterfly/ に書く。年ごとの記録は日付を年の小数に直し、自転の番号は 27.2753 日ごとに切った。境目の線は、極小の前後 2 年の |緯度| を 1° ごとに数え、3° でならして、8〜20° でいちばん深い谷に水平に引いた。1977 年からの緯度は 1° 刻みの整数なので、細かく数えると刻みのむらを谷と取り違える。模型は、拡散をクランク・ニコルソン法で、ほかの項をそのまま前へ進めた。

確かめていないこと。模型の f(θ)(緯度ごとの回転の差)は 1 のままで、µ は 3 だけ、α は cosθ sin^m θ の 1 族だけを試した。m=16〜24 の α を支える物理の文献は開いていない。模型の南半球は双極子の対称で北と同じになるので、5 つ目の見立ては模型では比べていない。Hathaway の t0 は使わず、SILSO の極小から測った。Parker が 1955 年に出した元の論文は開いていない。

出典

蝶形図のはじまり
E. W. Maunder「Note on the Distribution of Sun-spots in Heliographic Latitude, 1874 to 1902」Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 64(1904)747〜761。p.760(図 8・Plate 16 の作り方、帯は 1 つ、中空の楔)、p.761(2 つの周期が重なるのは極小のすぐあとだけ)
下がり方の道
D. H. Hathaway「A Standard Law for the Equatorward Drift of the Sunspot Zones」Solar Physics 273(2011)221〜230、arXiv:1108.1722v2。p.1(要旨・Butterfly Diagram の呼び名)、p.6(式 (2)(3))、p.8〜9(式 (4)・t は月)
Parker の 1 次元の模型
D. Moss・D. Sokoloff・A. F. Lanza「Polar branches of stellar activity waves: dynamo models and observations」Astronomy & Astrophysics 531(2011)A43、arXiv:1105.1034v1。p.3(α の頭打ち)、p.4(式 (3)(4)・µ≈3・α=cosθ sin^m θ)、p.5(D の符号と移動の向き、µ⁻¹=1/3)
黒点群の記録
D. H. Hathaway「Active Regions」solarcyclescience.com/activeregions.html。年ごとの黒点群の表(1874〜2026 年)、format.txt、派生ファイル sunspot_area.txt と bflydata.txt。データの利用条件はページに書かれていない(ページの末尾は Copyright © SolarCycleScience.com 2017)
周期の極小
SILSO, Royal Observatory of Belgium, Brussels「Solar Cycles Min/Max」https://www.sidc.be/SILSO/cyclesminmax。王立ベルギー天文台のデータ方針は、私的・教育・研究の利用に限り、出典の URL と計画の名を示すこととしている
数理
ます目の塗り方、周期の境目の引き方、羽の測り方、模型の羽を磁場の向きで分ける測り方は自分で組んだ
親戚
トンボの羽の網目・セミの素数周期・金星の五芒星・小惑星帯の隙間は木星との整数比に開く・アナレンマの上の輪と下の輪・チューリング・パターン
生成
generators/butterfly.js(butterfly.svg 表紙・butterfly-book.svg 帳簿)。数は generators/data/butterfly/ の obs.json・model.json・facts.json