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帯では絞れない

ダルベ・イマームの分割規則の候補は、十角形で 342 通り、蝶ネクタイで 48 通りある。前の号は頂点のまわりの形で 1 つに絞った。同じことを、ギリのもう 1 つの道具である帯でやろうとしたら、三通りに失敗した。判定は候補ぜんぶが通り、粗い量は枚数の言い換えで、細かい量は候補を全部区別してしまう。区別できることと選べることは違う、という話である。

生成りの地に、藍の線が十角形の星を組み合わせた大きな円形の文様を描く。下地には小さな十角形・六角形・蝶ネクタイが薄く敷かれ、墨の線が大きな十角形の輪郭を示す
論文の十角形の規則(またぐタイルを含む 211 枚)の上を走る帯。藍が帯、薄い下地がタイル、墨が σ = 2φ³ 倍の大十角形の輪郭。帯は辺の中点から辺に 54° で内側へ 2 本ずつ出し、鏡映で対になる最も近い線と結んで引いてある。

なにか

ギリ・タイルには 2 つの見方がある。1 つはタイルの並べ方で、もう 1 つはその上を走る帯である。帯は各辺の中点から辺に 54° で内側へ 2 本ずつ出し、鏡映で対になる最も近い線と結んで引く。この規則だと、タイルを並べるだけで帯が辺を越えてつながる(発見54)。ペンローズの菱形に同じ帯を載せても、共有辺の中点 815 個すべてで 180° になった(発見58)。

一方で前の号では、辺をまたぐ分割規則の候補を全部数えた。十角形(D10 を課して)342 通り、蝶ネクタイ(D2)48 通り、六角形(D2)589 通り。このうち論文の規則を選ぶ基準として使ったのが「頂点図鑑」で、完全な頂点のまわりの角の並びが論文の 2 規則に出る 8 種だけであることを要求した。六角形はそれでただ 1 つに絞れた。

では帯のほうを基準にしたらどうなるか。候補ごとに帯を全部引いて、つながり方や長さを測れば、別の角度から論文の規則を選び出せるのではないか。そう考えて試したが、絞れなかった。以下はその内訳である。

候補に帯を引く

候補は「大タイルの内側のタイル」の並べ方として出てくる。帯を引くには、辺の中点にまたがるタイル(十角形 1 枚とその両側の六角形 2 枚が、それぞれ半分だけ内側に乗っている)を丸ごと足して、第 1 世代のタイル集合にする必要がある。十角形なら 30 枚(十角形 10・六角形 20)で、内側の 181 枚と合わせて 211 枚になる。

足したタイル集合は毎回検算する。辺がすべて長さ 1 であること、単位辺が 3 枚以上に使われないこと(重なりがない)、多角形から測った面積の合計が名前ごとの単位タイルの面積の合計と Z[φ] の中で厳密に一致すること。論文の規則では 610+910φ で合った。

罠が 2 つ。①φ² を環の対 (a, b) = a + bφ で書くと 1 + φ である。ζ の基底では φ² = 2 + ζ² − ζ³ なので、つい (2, 1) と書いてしまい、またぐ六角形の辺が 1.902 になった。辺の長さを測って気づいた。②帯の経路をたどるとき、縁の辺の中点は 2 本しか集まらないが折れ点ではない。折れ点と同じに扱って折り返すと「帯はすべて閉じた輪になる」というきれいな嘘が出る。小区間の端点に「辺の中点」か「タイルの中の折れ点」かの役を持たせて直した。

失敗 1: 判定が候補ぜんぶを通す

まず発見58 と同じ判定を当てた。共有辺の中点に集まる 4 本(両側 2 本ずつ)が 2 組の 180° 対になるか。十角形 342 通り、蝶ネクタイ 48 通り、落ちる解は 0 だった。論文の規則では中点 660 個すべてで成り立つ。

理由は考えれば当たり前で、辺の中点で帯は両側とも辺に 54° で交わる。どちらの側にどのタイルが来ても、片方ずつが必ず一直線になる。つまりこの性質はタイルの形だけで決まり、並べ方に依らない。

「考えれば当たり前」で済ませず、直接確かめた。3 種のタイルを 1 枚ずつ取り、辺の全組合せ・全向きで貼り合わせて中点を見る。重ならない貼り方は 372 通りあり、そのすべてで 4 本が 180° 対になった。判定として、候補を 1 つも落とせない。

失敗 2: 粗い量は枚数の言い換え

ならば数で比べる。帯の網を小区間(中点から折れ点まで)に切り、まっすぐ続く限りつないだものを「直線区間」と呼ぶ。数えられるものは、直線区間の本数・小区間の数・節点の数・共有辺の中点の数。

内側の枚数(十角形/六角形/蝶ネクタイ)解の数直線区間小区間節点中点
11/130/100171112034202620800
21/100/90132108031402410730
31/70/80(論文の規則)38104028602200660
41/40/701100025801990590

4 つとも値が 4 種類しかなく、枚数の 4 類と両向きに単射だった。つまり帯を数えても、内側のタイルを数えたのと同じ情報しか出ていない。蝶ネクタイでも同じで、2 類 と 2 類が 1 対 1 になる。新しい基準に見えて、既知の量の言い換えである。

ここは「値の類の数が同じ」だけでは足りない。両向きに単射かどうかを確かめて初めて、同じ分割だと言える。片側だけなら「細かいほうが粗いほうを決める」しか言えない。

失敗 3: 細かい署名は指紋になる

もっと細かくすればいい、と思って、帯の経路そのものを測った。中点ではまっすぐ進み、タイルの中の折れ点では折れてそのまま進む。こうしてできる輪と鎖の長さを全部集め、多重集合にする。

この署名は、十角形 342 通りを 342 類に分けた。蝶ネクタイ 48 通りも 48 類。つまりどの候補も自分の類でただ 1 つである。「論文の規則はその類でただ 1 つだった」と書けば絞り込みに見えるが、どの候補もそうなのだから何も選んでいない。直線区間の長さの多重集合も 264 類で、論文の類は 3 通りにしかならない。

粗すぎる量は既知の量の言い換えになり、細かすぎる量は指紋になる。基準として働くのはその間だけである。

1 つだけ、枚数と食い違う量

帯で絞れるかを試した記録。中点に集まる 4 本の図、粗い量と枚数の対応表、署名の類の数を示す帯グラフ、最長の直線区間の分布、絞り込みの段を並べた帳簿
4 つの失敗と、唯一枚数と食い違った量。十角形の 342 行は保存した要約で、論文の行だけは検査のたびに生で計算して突き合わせる。蝶ネクタイの 48 行はこの図を作るたびに全部やり直している。

枚数の 4 類と食い違う帯の量が 1 つだけあった。最長の直線区間である。十角形では 7 種類の値を取り、その分布は枚数の類と交差する。そして論文の規則はその最小(1.7634)にいた。帯がいちばん短く折れる規則、ということになる。

蝶ネクタイでも同じことが起きる。値は 4 種類で、論文の規則はやはり最小。しかもその最小値は十角形と同じ 1.7634 だった。論文の 2 規則は、独立に測って同じ端にいる。

ただしこれで絞れるわけではない。同値が十角形で 12 通り、蝶ネクタイで 17 通りある。枚数を足して 9 通りと 14 通り、帯の輪の数を足して 6 通りと 7 通り。1 つには届かない。頂点図鑑が六角形を 589 通りから 1 つにしたのとは、力がまるで違う。

なぜ書き残すか

「絞れなかった」は結果として弱いが、失敗の形は 3 つとも他の場でも起きる。新しい基準を思いついたとき、確かめるべきことが 3 つある。

落ちる候補は何個か
0 なら篩ではない。判定が候補に依らない量で決まっていないかを疑う。
値の類は何個で、各類は何通りか
全部 1 通りなら指紋である。「正解はその類でただ 1 つ」は情報を持たない。
既知の量との対応は両向きに単射か
単射なら言い換えである。片側だけを見て「新しい量だ」と書かない。

この 3 つを出す前に「論文の規則はその類でただ 1 つ」と書いていたら、指紋を篩と取り違えたまま公開していた。

追記: 第 3 の篩=タイルの出現頻度も効かない

帯のあとで、もう 1 つ基準を試した。タイルの出現頻度である。論文の本文には「六角形:蝶ネクタイ → φ」と書いてあるのに、発見77 で確かめたとおり、載っている 2 つの規則はどちらも六角形と蝶ネクタイを同数だけ作る。ではこの候補たちの中に、本文の φ を出す組はあるのか。あるならそれが第 3 の篩になる。

頻度は置換行列から出る。列は「その大タイルを σ = 2φ³ 倍して分割したときの中身の枚数」で、辺の中点をまたぐタイル(十角形 1 枚と六角形 2 枚)は隣の大タイルと半分ずつ分け合うから、辺 1 本あたり 十角形 1/2・六角形 1 として数える。行列の最大固有値が面積の拡大率 σ² = 4φ⁶ で、右固有ベクトルが漸近の枚数の比になる。

発見78 の道具は、六角形の候補だけを論文の十角形・蝶ネクタイ規則と組ませて比を出していた。そこで見えていたのは 2 通り(1.0000 と 1.1254)である。今度は三つとも振る。候補は十角形 342・六角形 589・蝶ネクタイ 48 通りあるが、列は 4 種・2 種・2 種しかない。9,669,024 通りの組み合わせが、頻度の上では 16 通りに潰れる。16 通り全部で最大固有値は σ² に一致した(面積は保存されている)。

そして六角形:蝶ネクタイ は 0.843918 から 1.322348 までにしか散らばらない。φ = 1.618034 を出す組は 1 つもない。比がちょうど 1 になるのは、論文の 3 規則の組だけだった。

これは発見77 の結論を一段広げたことになる。「本文の φ は載っている 2 規則からは出ない」ではなく、この族(辺の中点をまたぐ σ = 2φ³ の分割)のどの規則を選んでも出ない。本文の φ は、別の作り方の話か、規則ではなく実際の模様の数え方の話である。第 3 の篩としては、これも空振りだった。

どう作ったか

帯の網
generators/lib/strapnet.js。またぐタイルの組み立て、単位辺と面積の検算、帯の網(小区間・節点・端点の役)、連続の判定、直線区間と経路のたどり、類分けと単射の判定。帯そのものの作図は girih.js の straps() をそのまま使っている。
候補の全列挙
tools/explore/darb-midedge-rule.js(発見78)。十角形 342 通りで約 5 分、蝶ネクタイ 48 通りで 1.7 秒。
絞り込みの試し
tools/explore/darb-strap-filter.js。解の JSON を読んで上の 3 つを出す。
収蔵した要約
generators/data/darb/strap-decagon.json(342 行)。全探索が 5 分かかるので測り値だけ保存し、論文の行は検査のたびに生の計算と突き合わせる。

検査

論文の規則では、帯は 660 本の辺のすべてでつながり、2 枚を貼る 372 通りのすべてでもつながる。

出典と権利

帯の作図は C. S. Kaplan, Islamic star patterns from polygons in contact(Graphics Interface 2005)の方法に従う。Kaplan は要旨で、これを Hankin の「接する多角形」の技法にもとづく方法だとしている(Hankin 1925 の本はギリの記事で開いて確かめた)。十角形と蝶ネクタイの規則は Lu & Steinhardt, Science 315, 1106 (2007) の Fig.3 D/E から座標を起こしたもの(発見77)で、論文の図は載せていない。元の意匠はダルベ・イマーム廟(イスファハーン・1453 年)。

つながり: 六角形の分割規則(候補の全列挙と頂点図鑑)・ギリ・タイル(帯の作図)・非周期のギリ(帯の規則で敷いた発見58)・ダルベ・イマームの分割規則・見取り図の発見81