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毛並みとつむじ

タイル 1 枚ずつに毛を 1 本植え、まわりの毛となじませて毛並みにした。毛の向きが 1 点のまわりを 1 周する所がつむじになる。Penrose の菱形ではつむじが 1 つも渦を巻かず、毛は放射状に開くか集まるだけだった。Hat では、輪郭の 1 辺に沿って毛を植えると、つむじが全部反時計回りに回り、床を鏡に映すと全部時計回りになった。なじませる幅を広げると、つむじはなめらかには減らず、階段のように一度に消えた。

短い毛が一面に流れ、毛の向きに応じて赤・橙・緑・青・紫と色が変わる。毛が花火のように開く点のまわりでは色がひと回りする
Penrose の菱形 1 枚ごとに、菱形の対角線の向きに毛を植えてなじませた。毛が放射状に開く白い点がつむじ、4 方向から毛が寄って分かれる所が分け目にあたる。毛は向きで 6 色に塗り分けた。つむじのまわりでは色がひと回りし、分け目のまわりでは逆の順にひと回りする。なじませる幅は菱形 1 枚の大きさの 1.5 倍。

なにか

人の頭のつむじは、毛の向きが 1 点のまわりで 1 周する所である。毛の向きを矢印の並び(ベクトル場)と見ると、矢印が 1 点のまわりで同じ向きに 1 周する点には指数 +1、逆向きに 1 周する鞍の形の点には指数 −1 が付く。つむじは +1、毛が 4 方向へ分かれる分け目は −1 になる。

Guo・Hawkins・Nathans は 2004 年、Frizzled6 という遺伝子を欠いたマウスで、後ろ足に決まった形のつむじができ、頭には形の決まらないつむじと房ができると報告した。要旨の結びは、ショウジョウバエの体表の模様を決める Frizzled の組織の極性と似た仕組みが、哺乳類の毛の並びにも使われていると読めると書く。ここでは逆に、向きを先に決めてしまう。非周期タイリングのタイルは、それぞれ決まった向きで置かれている。その向きを毛の向きにすると、どこにつむじができるかを数えられる。

→ ペンローズ・タイリング P3

→ Hat タイル

→ ピンホイール・タイリング(向きが無限に増える)

毛の植え方

3 つの床の毛並みにつむじと分け目の印を付けた図、なじませる幅に対する零点の数の折れ線、零点の表、零点の数が平らな幅の表、見立ての当たり外れの表
上は、3 つの床の毛並み。茜の輪がつむじ(+1)、藍の点が分け目(−1)。中ほどの折れ線は、なじませる幅 σ を 1 から 5 へ広げたときの零点の数を、乱数の向きのときの数で割ったもの。下は、σ=1.5 の零点の表、零点の数が変わらない σ の幅の表、見立ての表。

床は 3 つ使った。Penrose の菱形は 54,560 枚で、毛の向きは菱形を 2 つの三角形に分ける対角線の向き(10 通り)にした。Hat の帽子は 54,289 枚で、毛の向きは帽子の輪郭の決まった 1 辺の向き(裏返しの帽子 6,912 枚を含めて 12 通り)にした。ピンホイールの直角三角形は 78,125 枚で、毛の向きは長い脚の向き(置換 7 回で 54 通り)にした。どの床も、タイル 1 枚の平均の面積が 1 になるように縮めた。

毛をなじませるには、タイルの重心からの距離にガウスの重みをかけ、タイルの毛の向きを面積で重みづけて足した。重みの幅を σ と書き、タイル 1 枚の大きさを 1 とする。この足し合わせが 0 になる点が、毛の向きの決まらない点(零点)で、つむじか分け目のどちらかになる。半径 80 の円の中を σ の 4 分の 1 の刻みの格子に分け、格子のマスの 4 隅で向きが何周するかを数えて、零点を拾った。

比べる相手は 3 つ用意した。同じ床で向きだけをタイルのあいだで入れ替えたもの、同じ重心に一様な乱数の向きを置いたもの、正方形を同じ向きで並べたもの。正方形では毛が一方向にそろい、零点は 1 つもできない。乱数の向きでは、零点の数が Dennis 2001 の式 K2/4π に、ここの重みでは 1/(4πσ²) に乗った。正方形の格子に乱数の向きを置いて σ=1・1.5・2 で数えると、式との比は 0.97〜1.02 だった。

Penrose のつむじは渦を巻かない

σ=1.5 で、Penrose の床には零点が 851 個あり、そのうちつむじが 416 個だった。416 個のどれも渦を巻いていない。毛はつむじから放射状に開くか(306 個)、つむじへ放射状に集まるか(110 個)のどちらかだった。向きを入れ替えた対照では、つむじ 370 個のうち 246 個が渦を巻く。σ を 1・2・3 にしても、Penrose のつむじで渦を巻くものは 0 個のままだった。

理由は毛並み全体にあった。毛並みを「回る成分」と「湧き出す成分」に分け、それぞれの 2 乗を窓の中で足して比べると、乱数の向きでは 0.97、Penrose では σ=1.5 で 0.00036 になる。σ が 0.5 なら 0.069、3 なら 0.0000063 で、幅を広げるほど回る成分は消えていく。Penrose の菱形の対角線の向きを広くならすと、どこかの高さの坂を下る向きのような、回らない流れになる。なぜそうなるかは確かめていない。

菱形は対角線について鏡に映すと同じ形なので、毛を斜めに寝かせる向きを菱形の中では決められない。平面ごと回すことはできる。毛を全部 15〜75° 反時計回りに寝かせると、416 個のつむじが全部、外へ向かって左巻きの渦になる。105〜165° なら全部右巻きになる。巻きの向きは、寝かせた向きがそのまま決めた。

Hat のつむじは全部反時計回り

Hat の床では、σ=1 で 1,173 個、1.5 で 430 個、2 で 379 個、3 で 168 個のつむじが、どれも反時計回りに回っていた。向きを入れ替えた対照では、反時計回りはほぼ半分になる(σ=1.5 で 339 個のうち 169 個)。帽子をすべて鏡に映した床では、431 個が全部時計回りになった。Hat の床は、裏返しの帽子が 8 枚に 1 枚ほどしかなく、鏡に映すと別の床になる。毛並みのつむじは、その左右の偏りをそのまま映した。

ただし、毛を帽子の中で 60° 以上回すと、反時計回りは減る。90° で 430 個のうち 144 個になった。全部がそろうのは、毛を輪郭の 1 辺から 0〜45° の向きに植えたときだけである。

ピンホイールのつむじは全部吸い込む

ピンホイールの床では、σ=1 から 3 のどれでも、つむじは 1 つ残らず毛を吸い込む向きだった(σ=1.5 で 553 個、うち渦を巻くもの 544 個)。回る向きは反時計回りと時計回りがほぼ半分ずつ(276 個と 277 個)。ピンホイールの三角形は、表と裏返しがほぼ同じ数ある(78,125 枚のうち 39,063 枚が裏返し)。毛並みは、回る成分の 2 乗の和が湧き出す成分の 9.2 倍あり、渦の強い流れになった。

つむじは階段のように消える

なじませる幅 σ を広げると、零点は減る。乱数の向きなら、零点の数は σ² に反比例してなめらかに減る。タイルの床では、零点の数が σ を変えてもほとんど変わらない幅があり、その幅の端で一度に減った。Penrose では、σ が 1.31 から 1.67 まで 849〜851 個でほぼ動かず、1.89 付近と 2.07 付近の 2 段で 341 個まで落ち、2.14 から 2.99 までは 311 個のまま動かない。

段差の位置は、床の置換の拡大率ごとにくり返した。Penrose の段差 1.26・1.89・2.07・3.02 を 1.618 倍すると、次の段差 2.07・3.02・3.38・4.94 と 1.2% 以内で重なる。Hat は拡大率 2.618 で、1.18 の段差が 3.16 に、ピンホイールは拡大率 2.236 で、1.58 の段差が 3.54 に重なった。平らな所の零点の数は、拡大率の 2 乗、つまり 1 段大きいタイルの面積の比で減る。Penrose で 2,234・851・311・111(比は 2.62・2.74・2.80、拡大率の 2 乗は 2.618)、ピンホイールで 1,163 から 237 へ 4.91、439 から 84 へ 5.23(5)、Hat で 2,343 から 335 へ 6.99(6.854)。

タイルの床は、置換で 1 段大きいタイルを作っても同じ形の床になる。だから、σ を拡大率倍にした毛並みが、もとの毛並みと同じ形の段を踏むのは、この形の同じさから見込める。見込めなかったのは、段のあいだで零点の数が 1% も動かないことだった。乱数の向きを同じ 73 点の σ で数えると、零点の数は 1,608 から一歩ごとに減り、1% 以内で 4 点続く所は 1 つもなかった。

見立て

零点を数える前に、見立てを 5 つ決めて生成器の冒頭に書いた。

見立ての 1 つ目は、乱数の向きの零点は 1/(4πσ²) の ±15% に入る、だった。3 つの床の重心で種を 3 つずつ、σ を 4 通りに振った 36 回すべてで、比は 0.915〜1.071 に入った。当たり。

見立ての 2 つ目は、ピンホイールの零点は、向きを入れ替えた対照より 2 割以上少ない、だった。同じ親から生まれた三角形は向きが近いので、毛がそろってつむじが減ると考えた。実際は逆で、σ=1.5 で 1,103 個と対照の 704 個より多い。外れ。

見立ての 3 つ目は、Penrose と Hat の零点は、向きを入れ替えた対照より多い、だった。σ を 4 通りに振ったどれでも多く、当たり。ただ、ピンホイールも多かったので、Penrose と Hat に特有のことではなかった。

見立ての 4 つ目は、巻きの左右の差は、ピンホイールと Penrose ではどの φ(毛を寝かせる角度)でも 15% 以内、Hat では 15% を超える φ がある、だった。ピンホイールは最大 3.3%、Hat は φ=0° で 144 と 286、60° で 55 と 375 に分かれて当たった。Penrose は寝かせると全部が片側の巻きになり、外れた。半分当たり。

見立ての 5 つ目は、σ を 2 倍にすると零点の数は 1/6〜1/2.5 になる、だった。σ=1 から 2 と 1.5 から 3 の 6 組とも入って当たり。ただ、段の上で数えたので、比は 0.22 から 0.39 まで散った。

どう作ったか

生成器は generators/fur-whorl.js である。Penrose の菱形は Robinson 三角形の置換 10 回、Hat は帽子のメタタイルの置換 5 回、ピンホイールはピンホイール・タイリングと同じ 5 分割を 7 回くり返した。どの床も、半径 96 以上の円がタイルで覆われることを確かめてから、半径 80 の円で数えた。格子のマスの 4 隅の向きの変化を足して 2π で割り、0 でないマスを零点にした。つむじが渦を巻くか、湧き出すか吸い込むか、どちらへ回るかは、マスの 4 隅から出した場の微分で決めた。

数え方は 2 つの面から確かめた。円の中のマスの指数の和は、マスの集まりの縁を 4 倍細かく歩いて数えた回転数と一致した(Penrose −19、Hat 3。ピンホイールは刻み σ/4 では 3 と 4 で食い違い、σ/8 では 1 と 1 で一致した)。刻みを σ/8 にしても、σ=1.5 の零点は Penrose 851、Hat 859、ピンホイール 1,137 で、σ/4 のときとの差は 4% 以内だった。毛の根元をタイルの重心から輪郭の頂点 1 つへ移すと、Penrose の 411 個のつむじのうち 36 個が渦を巻いた。根元を重心に置いたときだけ、放射の形が 1 つ残らずそろった。

毛の根元と先を区別せず、向きを線として扱うと、零点は ±1/2 の指数を持つ点になる。こちらも数えた。σ=1.5 で Penrose は 2,520 個、向きを入れ替えた対照の 3.6 倍あった。Hat は 2.1 倍、ピンホイールは対照とほぼ同じだった。

確かめていないこと。Penrose の毛並みが回らない流れになる理由は調べていない。数えた窓は床ごとに中心 1 つだけで、半径 40 の窓にすると、Hat では σ の大きい所で零点の比が 3 割ほど動いた。段差の位置は、σ を 1〜5 で 73 点に刻んだ列から拾ったので、その刻みより細かい位置は分からない。Guo ほかの論文は要旨だけを読んだ。本文の図とマウスのつむじの形は見ていない。

出典

零点の数の式
M. R. Dennis「Topological Singularities in Wave Fields」博士論文、Bristol 大学、2001 年 11 月。2026 年 10 月 28 日に PDF を開いた。§3.1 の p.62〜64(自己相関 C(R) を C(0)=1 にそろえる、⟨ξ_α²⟩=K2/2)、§3.2.1 の p.74〜76(平面の零点の密度 dD=K2/4π=−C''(0)/2π、+1 と −1 は平均で同じ数、最初の計算は Berry 1978 で Halperin 1981 が導き直したこと)
マウスのつむじ
N. Guo・C. Hawkins・J. Nathans「Frizzled6 controls hair patterning in mice」PNAS 101(25) 9277〜9281(2004)。2026 年 10 月 28 日に Europe PMC で要旨を読んだ。本文は開けなかった
数理
毛の向きの決め方、なじませ方、零点の数え方と分け方、対照の作り方、段の拾い方は自分で組んだ
親戚
ペンローズ・タイリング P3・Hat タイル・ピンホイール・タイリング・蔓を敷く・ハエの羽の継ぎはぎ
生成
generators/fur-whorl.js(fur-whorl.svg 表紙・fur-whorl-book.svg 帳簿)。数値は generators/data/fur-whorl/facts.json に書き出した