コーラム
点の格子を斜めの光線が巡るコーラムでは、鏡を1枚置くと輪の本数がちょうど1本増えるか減る。だから一筆書きは「輪の本数−1」枚の鏡で作れる。
なにか
南インド(タミル)の家の門前に、毎朝米粉で描かれる紋様。点(プッリ)を格子に置き、その間を斜めに走る線が点を囲んで閉じる。一筆書き(カンビ・コーラム)が好まれ、線はどの交差でも上・下・上・下と交互にくぐる。ここでは Gerdes の「鏡の曲線」の模型で扱う。点を等間隔に置き、斜め 45° の光線を外壁で反射させると閉じた曲線の族ができ、内側に「鏡」を置くと曲線がつなぎ替わる。組紐と同じ模型で、鏡が新しい。
鏡 1 枚で輪の本数はちょうど ±1 動く
鏡のない長方形 m×n では、輪の本数が gcd(m, n) になる。組紐と同じ帳簿で、8 例で一致した。菱形(辺の点が 1, 3 と増えて 2r+1 までいき、また 1 まで戻る形)では 2r−1 本。どの配置でも上下は「横の隙間では 北東と南西 の線が上、縦の隙間では 北西と南東 が上」と決めるだけで全交差で交互になり(交代絡み目)、点はすべて曲線に囲まれる。
鏡を 1 枚足すと輪の本数はどう動くか。鏡なしの 5 配置と、乱数で鏡を 10 枚置いた下地 12 例で、置ける全位置を総当たりした。−1 か +1 だけで、0 は 1 度も出ない(863 位置)。鏡は 2 本の斜線の交差を「つなぎ替える」だけなので、別の輪なら合流(−1)、同じ輪なら 2 本に割れる(+1)。同じ輪が 1 本のまま残る組み合わせが、この模型では起きない。帰結として輪の偶奇 = (鏡なしの本数 + 鏡の枚数)の偶奇(乱数の鏡 100 組で外れ 0)。
だから一筆書きは「輪 − 1」枚より少ない鏡では作れず、減らす鏡を選んで置けばちょうどその枚数で届く。4×6・6×6・菱形 r=2〜5 の 6 例すべてで、貪欲法が「輪 − 1」枚で 1 本にした。出荷図は 90° 回転で不変な鏡 8 枚(C4 対称)。
D4 対称(回転+鏡映)の鏡だけの一筆は、下の節で全探索して「できない」と決着した。鏡の曲線とコーラムの対応は Gerdes 自身が書いていた。Forma 22(2007)の p.130 に「鏡の曲線という考えは、アンゴラの伝統的な sona の一群を調べていて見つけた。のちに、インドのタミルの kolam のいくつかや、ケルトの結び目も鏡の曲線として書けると分かった」とある。ただし著書『Lunda Geometry』では kolam という語を使わず、一貫して「Tamil threshold design」と呼んでいる。いっぽう Yanagisawa と Nagata の 2007 年の論文は鏡を使わない。全文に mirror も Gerdes も sona も出てこず、45° に傾いた双対格子の上の直線と、点を囲む弧と、交点での交差/非交差だけで組み立てている。2 つを並べて鏡の曲線の出典にするのは正しくないので、書き分けた。両者を明示的に結んだのは Gopalan と Vanleeuwen の 2015 年の論文である。最初、壁の隙間から外へ向かう「出発」も状態に数えていて曲線が点の外へ出た。出発できるのは歩が通るマスに点があるときだけ。
対称な一筆書きはできるか。45° の軸だけが曲線と直交する
出荷図の対称は C4(90° 回転)で、鏡映は入っていない。鏡映も入れた D4 対称の鏡で一筆にできるか。群の軌道ごとに置く/置かないを全探索した(r=2〜5 で 64〜32,768 通り)。最少の輪は 3・3・5・5 で、1 本は 1 度も出ない。一方 C4 と縦軸の鏡映だけなら 1 本にできる。
理由は、曲線が 45° に走ることと、対角線もまた 45° に立っていることにある。以下は証明の形に書いたもので、各段を機械でも確かめた。
定理. 菱形 Dr の点格子で、鏡の置き方が対角線の鏡映で不変なら、閉曲線は 2⌊r/2⌋+1 本以上になる。r ≥ 2 ではこれが 3 以上なので、一筆書きにはならない。
段1。曲線が対角線と出会う形は一つしかない。曲線は隙間から隙間へ (±1, ±1) で進むから、どの区間も 45° に走る。曲線の通る点は x+y が奇数の格子点なので、x = y の上には決して乗らない。だから対角線と出会うとしたら、(1, −1) 方向の歩で直交して横切る形しかありえない。対角線に沿って走ることも、対角線上で折り返すこともできない。この直交する歩 P → Q は、鏡映 σ(x, y) = (y, x) のもとで P と Q が入れ替わるので、歩そのものが σ で自分自身に写り、その中点が σ の不動点になる。
段2。直交する歩は 4⌊r/2⌋+2 本ある。対角線上の格子点は、中心から (t, t) だけ離れた点として |t| + |t| ≤ r を満たすものだから、|t| ≤ r/2 で 2⌊r/2⌋+1 個。この各点のまわりには隙間が 4 つあり、x − y = +1 のもの 2 つと −1 のもの 2 つを結ぶ (1, −1) 方向の歩がちょうど 2 本通る。掛けて 4⌊r/2⌋+2 本になる。r = 1 から 8 まで数えて式と一致した。
段3。対角線と交わる輪は σ で自分自身に写る。鏡の置き方が σ で不変なら、曲線の族全体も σ で写る。ある輪が対角線と交わっていれば、その交点は σ で動かないから、輪の像もその点を通る。曲線の族は互いに素なので、像は元の輪そのものになる。
段4。自分自身に写る輪の上で、不動点はちょうど 2 つある。輪 L は円と同相で、その上に σ が誘導する写像は 2 回かけると恒等に戻る対合である。円の上の対合は 2 種類しかない。向きを保つものは恒等写像か対蹠写像で、不動点は全部か 0 個になる。向きを変えるものは鏡映と同じで、不動点はちょうど 2 個。L は対角線と交わるので不動点を持ち、L 全体が対角線に含まれることはないから恒等ではない。よって不動点はちょうど 2 個である。
段5。数えて割る。直交する歩は 4⌊r/2⌋+2 本あり、そのすべてが σ で自分自身に写る輪の上にある。ひとつの輪が持てるのは 2 本までだから、そういう輪は少なくとも (4⌊r/2⌋+2) / 2 = 2⌊r/2⌋+1 本ある。輪の総数はそれ以上になる。∎
機械での確かめ方は次のとおり。輪の点列 p0 から pn−1 までに対して σ(pi) = p(s−i) mod n となる s を探す。s が偶数なら不動点は隙間の点、奇数なら歩の中点になる。r = 2 から 6 まで、対角線で自分自身に写る輪はどれも奇数の s を持ち、不動点は歩の中点 2 個だった。歩を直接数えた本数と、輪ごとの対合から出した不動点の総数が一致する。幾何と位相の別々の経路が同じ数を出したことになる。鏡を置いた D4 対称の最良配置でも同じだった。
この下界は全探索の最小値そのものである。r = 2, 3, 4, 5 で下界は 3, 3, 5, 5、全探索の最小値も 3, 3, 5, 5 で、達成する配置が実際にある。不等式は等号まで詰まっている。
なぜ縦軸なら一筆にできるか
同じ議論を縦軸でやると、段1 でつまずく。曲線の歩は 45° に走り、縦軸は 90° に立っているので、両者は直交しない。σ で自分自身に写る歩が 1 本もない。数えると、縦軸の上に曲線の点は r = 6 で 13 個もあるのに、直交する歩は 0 本だった。
縦軸上の点を通る曲線は、その点で σ の像と入れ替わるだけで、輪の上の位置としては動いてしまう。不動点になるのは、菱形の上下の頂点で曲線が壁に当たって折り返す 2 か所だけである。実測でも、縦軸で自分自身に写る輪は 1 本、その上の不動点は 2 個で、型は歩の中点ではなく隙間の点だった。下界は立たず、実際 1 本にできる。回転も同じで、180° 回転で自分自身に写る輪はすべて対蹠型、つまり不動点が 0 個だった。だから C4 の鏡なら一筆書きが作れる。
D4 だけができない理由は、その鏡映の軸に 45° の対角線が 2 本含まれることに尽きる。曲線が 45° に走る模型では、45° の軸だけが曲線と直交し、直交だけが不動点を生む。
円の上の対合の分類(向きを保てば恒等か対蹠、変えれば不動点 2 個)は位相の教科書の事実で、ここでは使っただけである。ただし結論の側は実測で裏を取った。r = 2 から 6 まで、対角線・縦軸・180° 回転の 3 通りで、輪ごとの不動点の数と型をすべて数えている。ひとつ前の版で「D4 は貪欲法で 5 本止まり(できないとは言えない)」と書いたのを、全探索で「できない」に言い換え、この版で理由を証明の形にした。
どう作ったか
生成器は generators/kolam.js で、点を (2i, 2j) に置き、曲線は x+y が奇数の格子点(隣り合う点の中間)を (±1, ±1) で進める。片側にしか点のない隙間と鏡で反射させている。対称な一筆が作れるかどうかは、菱形 r=2〜5 で鏡の置き方を群の軌道ごとに全探索した(64 通りから 32,768 通り)。定理の側は、対角線上の点の数と、そこを直交して横切る歩の数を r=1〜8 で数え、幾何の歩数と位相の対合が合うことを r=2〜6 で確かめている。
出典
- 数理
- P. Gerdes, "African sona, mirror curves and Lunda-designs", Forma 22 (2007), 129–131=kolam への接続は p.130(forma.katachi-jp.com で全文を読んだ)/P. Gerdes, Lunda Geometry=鏡の曲線の定義は p.40–41(ここでは kolam ではなく Tamil threshold design と呼ぶ)/K. Yanagisawa, S. Nagata, "Fundamental study on design system of kolam pattern", Forma 22 (2007), 31–46=5 つの規則は p.32(鏡は使わない)/V. Gopalan, B. K. Vanleeuwen, "A topological approach to creating any pulli kolam", Forma 30 (2015), 35–41=必須 3 規則 M1–M3 と選択規則 O1 は p.35–36。「±1 だけ」「偶奇の法則」「輪 − 1 枚」は自分で測った結果で、文献と照合していない
- 親戚
- 組紐と最大公約数・非周期のケルト装飾・結ばれた輪・トゥルシェ(乱数 1 つで輪ができる)
- 生成
- generators/kolam.js(kolam.svg 菱形 r=4 の一筆・kolam-book.svg 帳簿・kolam-symmetry.svg 対称の可否)