丸台の組紐と置換の位数
丸台で玉を対岸へ移す手順は、1 周期ごとに玉の位置の置換を決める。その位数が全部の玉が元の位置へ戻る周期数で、色の並びが繰り返す周期はその約数になる。置換が同じに見える手順どうしも、糸の絡み数とジョーンズ多項式で分かれ、右巻きと左巻きの金剛組は別の絡み目になる。
なにか
丸台は組紐の台で、円い鏡板の縁におもり付きの糸(玉)を並べ、決まった順で玉を対岸へ移しながら、中心の穴に紐を組み下ろす。8 玉の金剛組は丸い紐になり、色の置き方で渦や市松が出る。江戸八つ組や角八つ組、16 玉の金剛組も同じ台で組む。丸台が「組み下げて組む」台であることは伊賀組紐の平井の頁、16 玉の金剛組は組紐の本の著者 R. Neilson の頁で確かめた。江戸八つ組・角八つ組の名は二次的な紹介でしか見ていないし、どの組も動かし方の手順を権威のある資料では確かめていない。ここで確かめたのは自分の模型の計算だけである。
模型はこう決めた。縁に n 個のスロットを等間隔に置き、8 玉なら 2 玉ずつの組を北・東・南・西に 1 組ずつ置く。組み手は上の組の向かいに座り、左右は組み手から見て決める。1 手は 4 つの選択で決まる。上の組の左か右の玉を、向かいの組の左か右の外側へ中心の上を通して移し、次に向かいの組にもともとあった左か右の玉を、上に残った玉の左か右の外側へ移し、最後に各組を元の 2 スロットへ縁に沿って寄せ直す。手ごとに丸台を 90° 回して次の組を上にする。ここでは金剛組を「上の左を下の左外へ、下の右を上の右外へ」とした。見られた手順の説明(趣味の解説)はこれと左右が逆で、撚りの向きが逆になるだけである。選択は 2⁴ = 16 通りあるので、16 通り全部を同じ帳簿に載せた。
北の手と南の手は同じ 2 つの移動を逆順にしたもので、互いに干渉しない。だから置換も組紐も、北南と東西の 2 手で 1 周期になる。これは 4 手の置換が 2 手の置換の 2 乗になることで確かめた。
置換と位数
16 通りの規則が決める置換は 16 通りすべて別で、巡回型は 3 種しかない。(4,4)が 4 規則、(3,3,1,1)が 8 規則、(2,2,1,1,1,1)が 4 規則で、位数は順に 4・3・2 である。長さ 1 の巡回は動かない玉で、その糸は紐の中をまっすぐ通る芯になる。芯は 0 個・2 個・4 個のどれかで、2 手の規則では位数が 4 を超えない。金剛組の置換は (0 5 4 1)(2 7 6 3)で、北南の 4 玉と東西の 4 玉が別々に回り、4 周期で全部の玉が元の位置に戻る。
色の並びが繰り返す周期は、置換の位数の約数になる。金剛組で組ごとに同色(北南が藍・東西が茜)なら周期 1 で縦縞になり、組の中で 2 色(北が藍・南が茜)なら周期 4 で色の帯が一周する渦になる。各組の左右で色を変えると周期 2、1 玉だけ茜にすると周期 4 の螺旋 1 本になる。2 色の置き方 2⁸ = 256 通りを周期ずらしで同一視すると 70 種類で、これはバーンサイドの補題の (2⁸ + 2² + 2⁴ + 2²)/4 と一致する。3 色なら 1665 種類である。
玉の数と組の分け方を変えると置換が変わる。16 玉を 4 玉ずつ 4 組にして同じ規則で組むと、置換は 8 巡回 2 つで位数 8 になり、渦の 1 周が 8 周期に伸びる。8 玉を 4 玉ずつ 2 組にすると、置換は 8 巡回 1 つで位数 8、1 周期の交差は 7 で、閉じると自明な結び目になる。これは全部の点を 1 つずつ回す組紐そのものである。
置換より細かい量
玉を平面の点と見ると、手順 1 周期は点の動きで、点の動きは組紐群の元を決める。動きを少し傾けた軸へ射影し、2 点の順が入れ替わるたびに交差を記録すると組紐語になる。軸の傾きを 0.137・0.41・1.1 rad と変えると語の長さは 22・16・14 と変わるが、置換・指数和・絡み数・ジョーンズ多項式はどれも同じで、同じ組紐の別の図であることが確かめられた。語から出した置換は、玉の位置を追って出した置換と 16 規則すべてで一致した。
1 周期の閉包のジョーンズ多項式は、16 規則とも成分数の自明な絡み目と同じで、1 周期だけでは何も絡んでいない。絡みは周期を重ねて出る。位数の回数だけ周期を重ねると全部の玉が元の位置に戻り、閉じると糸 1 本ずつが輪になる 8 成分の絡み目になる。金剛組では 28 対の糸すべてが絡み数 ±1 で絡み、同じ組(北南どうし・東西どうし)の 12 対は全部 −1、別の組の 16 対は +1 と −1 が 8 ずつである。指数和 −24 は絡み数の和の 2 倍に等しい。芯のある 12 規則では、芯の糸はどの糸とも絡まない。
金剛組と同じ巡回型 (4,4)・位数 4 の規則 LRLR(上の左を下の右外へ、下の左を上の右外へ)は、絡む対が 20 対で、ジョーンズ多項式も別になる。置換では同じに見える手順が、組紐としては別物である。鏡映の規則(左右を全部入れ替える)の閉包は V(t)が V(1/t)に入れ替わり、これは 8 対すべてで成り立った。金剛組は V(t)と V(1/t)が一致しないので、右巻きと左巻きの金剛組は別の絡み目である。16 規則の閉包のジョーンズ多項式は 10 種で、鏡映で 5 対に分かれる。16 玉の金剛組は 8 周期で 120 対すべてが絡む。
数字を出す前の見立ては 5 つだった。金剛組の置換が 4 巡回 2 つで位数 4 になることは当たった。16 規則の置換は鏡映で対になるので 8 種以下、巡回型は 3 種と見ていたが、置換は 16 通り全部別で、巡回型 3 種だけが当たった。鏡映の規則でジョーンズ多項式が t と 1/t で入れ替わること、組ごとに同色なら縦縞で組の中で 2 色なら周期 4 の渦になること、16 玉が 8 巡回 2 つで位数 8 になることは当たった。鏡映で対になるのは置換ではなく閉包の絡み目のほうだった。
どう作ったか
生成器は generators/kumihimo.js で、スロットの角度と組から 1 手の動き(中心の上を通る直線 2 本と縁の弧)を作り、玉の行き先で置換を出した。巡回・位数・色の周期・バーンサイドの数はその置換から数えた。動きを傾けた軸へ射影して交差の列を拾い、隣接の入れ替えが 2 段飛ぶ区間は二分して、傾き 9 通りのうちいちばん短い語を採った。閉包のジョーンズ多項式は交差が多いので Temperley-Lieb 代数で計算し、交差 22 以下の図では既存の状態和(jones.js)と突き合わせた。絡み数は糸の対ごとに交差の符号を足して 2 で割った。表面の展開図は「その時刻にそのスロットにいる玉の色」で、糸の上下は含まない近似である。依存も乱数も使っていない。
確かめていないこと。江戸八つ組・角八つ組など金剛組以外の伝統の手順は、どの規則に当たるかを照合していない。表面の展開図は糸の上下(織り)を描いていないので、実物の紐の見え方とは違うところがある。1 周期の閉包が自明な絡み目であることはジョーンズ多項式が同じというところまでで、ほどけることの証明ではない。
出典
- 身近
- 丸台の組紐。金剛組(8 玉・16 玉)、江戸八つ組、角八つ組(動かし方の手順は権威のある資料で確かめていない。ここでは「上の玉を下へ・下の玉を上へ・寄せ直す・90° 回す」という規則だけを使った)
- 数理
- 組紐群と点の動き: E. Artin, Abh. Math. Sem. Hamburg 4 (1925) 47〜72(本文は有料で開けていない。J. S. Birman と T. E. Brendle, arXiv:math/0409205 の p.4 で表示を確かめた)。ジョーンズ多項式と Kauffman ブラケット: V. F. R. Jones (1985)・L. H. Kauffman (1987)、既存の生成器 jones.js の実装を使った。Temperley-Lieb 代数によるブラケットの計算は、状態和と突き合わせて確かめた。バーンサイドの補題: 手計算と一致
- 親戚
- 組紐と最大公約数・結び目の不変量・結ばれた輪・手毬の地割り・家紋の対称群
- 生成
- generators/kumihimo.js(kumihimo.svg 金剛組 8 玉・16 玉の丸台と表面の展開図・kumihimo-book.svg 帳簿。依存ゼロ・乱数ゼロ)