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紋切り遊びと一刀切り

紙を扇に畳んでハサミを 1 回まっすぐ入れると、出る紋は半径が交互の 2n 角形だけである。桜のような紋を直線 1 本で切るには、折り線を直線スケルトンと垂線の 35 本に増やせばよい。折り線で鏡映を重ねると桜の 20 の辺は 1 本の直線に乗り、内部の節は全部で川崎の定理が成り立つ。

桜の紋の上に、直線スケルトンの折り線(明るい実線)と垂線の折り線(茜の破線)を重ねたもの。四隅に小さな桜
桜の紋(花弁 5・先端に切れ込み・頂点 20)と、直線 1 本で切り出すための折り線。明るい実線が直線スケルトン(弧 25)、茜の破線が節から辺へ下ろした垂線(10)。この 35 本で畳むと、20 の辺が 1 本の直線に重なる。

なにか

紋切り遊びは、紙を扇形に折り畳んでハサミを入れ、開いて紋を出す遊びである。平凡社『世界大百科事典』は、紋切りを「正方形の紙を一定の方式で折りたたんで紋章の部分を切りぬく手法」とし、紋を切り抜いた型紙「紋切形」が江戸末期には市販されていたと書いている。桜なら 5 つ折り、雪なら 6 つ折りにして、折った紙の縁に切り込みを入れる。開くと切り口が鏡映と回転で 2n 回写り、家紋と同じ D_n 対称の紋になる。ここで気になるのは 2 つで、扇に畳んでまっすぐ 1 回切るだけならどんな紋が出るのか、そして桜のように切り口が折れる紋を、折り方を変えて直線 1 本で切れるのか、である。

後者には定理がある。Demaine・Demaine・Lubiw の一刀切り定理(fold-and-cut theorem、1998 年の会議論文)は、紙を平らに折れば、直線 1 本の切り口で望みの切り線の図をまとめて切り出せることを示した。要旨は、折り線が直線スケルトン(辺を等速で内側へ動かしたときに頂点が描く軌跡)と、折れるようにするための垂線の集まりでできると書いている。定理 1 には条件(輪になった通路ができない、など)がつき、条件なしの主張は系 1 の形で述べられている。同じ論文の p.1 は、この問題の最初の記録として日本の『和国智恵較』を挙げている(論文は 1721 年とするが、国立国会図書館の書誌では享保 12 年〔1727〕の跋)。

扇に畳んで直線 1 本なら、出る紋は 4 種

扇折りに直線 1 本で出る 6 つの形、桜・梅・雪の折り線図と畳んだ像、折り線の数の表
上から、扇折り(n = 5)に直線 1 本を入れて切り口の傾きを変えたときに出る形、桜・梅・雪(六芒星)の折り線図と畳んだ像(茜が切り口の直線)、形ごとの折り線の数。

扇折りは中心を通る n 本の折り線で、半直線にすると 2n 本、隣り合う角は π/n になる。畳んだ紙は 2n 層で、切り口は基本の扇(角 π/n)の中の線分 1 本になる。開くと二面体群 D_n の像が 2n 本並び、これが紋の輪郭である。切り口の両端は 2 本の折り線の上にあるから、開いた形の頂点は半径 r1 と r2 が交互に並ぶ 2n 角形にしかならない。r2 = r1 なら正 2n 角形、r2 = r1/cos(π/n)、つまり切り口が片方の折り線に垂直なら正 n 角形になる。そのあいだは凸 2n 角形、外は n 芒星で、この 4 種の外には出ない(n = 4・5・6・8、傾き 5 通りで確認)。切り口の長さ × 2n は周長にぴったり一致する。

中心に集まる折り線 2n 本は川崎の定理(交互の角の和が等しい)を満たす。山谷も数えた。紙を半分に折ってから、半円をジグザグに畳むと、上の層の折り線は交互に山と谷になり、裏返っている下の層では同じ折りが逆になる。最初の半分折りの 2 本はどちらも谷なので、山は n − 1 本、谷は n + 1 本で、差は 2、つまり前川の定理に合う(n = 3〜12)。折り線を全部交互にすると山谷が同数になって平らに畳めない。半分折りが先にあるのはそのためだと数で分かる。

桜を直線 1 本で切る

桜(花弁 5・先端に切れ込み・頂点 20)を扇に畳むと、基本の扇に入る輪郭は切れ込みから花弁の角、花弁の角から付け根の 2 辺で、切り口は折れ線になる。梅(花弁の先を 5 辺で丸めた頂点 30)は 3 辺である。扇折りでは直線 1 本で切れない。

そこで一刀切りの折り線を計算した。直線スケルトンは、辺イベント(辺が縮んで消える)と分割イベント(凹の頂点が向かいの辺に当たる)を時刻順に処理して求めた。桜のスケルトンは弧 25 本、内部の節は花弁の芯 5 つと中心の 6 つで、辺イベントだけで閉じる。梅は付け根の凹の頂点が向かいの辺に当たる分割イベントが起きて、弧 45 本、節 16 になる。弧の両端が両側の辺から等距離にあること(二等分線であること)、節の集合が 2π/5 の回転で自分に重なることを別に確かめた。垂線は、節ごとに、その節が触れる各面の辺に垂直な向きへ面の中を進め、弧に当たれば鏡映で隣の面へ跳ね返し、辺か節で止める。桜は 10 本、梅は 50 本で、どちらも跳ね返りなしに辺へ届いた。

検証は畳んで見ることに代えた。辺 0 を含む面を基本の面とし、隣の面へ移るたびに越えた折り線での鏡映を合成して、各面の変換を作る。その変換で多角形の辺を写すと、桜の 20 の辺、梅の 30 の辺、雪の 12 の辺が、どれも 1 本の直線に 1e−15 で乗る。面の数は桜 30・梅 80・雪 12 で、全部の面に届いた。内部の節はどれも偶数次数で、川崎の定理を満たす(桜 6・梅 16・雪 1 節)。山谷の割り当てと紙の重なり順は確かめていない。

雪(六芒星)はスケルトンが中心から出る 12 本で、これは扇折りの折り線そのものである。垂線は 0 本で、切り口は周長のちょうど 1/12 になる。半径が交互の 2n 角形なら、一刀切りの折り線は扇折りに戻る。

折り線の数を数える前に見立てを書いておいた。「桜の一刀切りの折り線は 30 本前後、雪は扇折りの 6 本で直線 1 本で切れるので垂線は要らない」。結果は桜 35 本(弧 25+垂線 10)、梅 95 本(弧 45+垂線 50)で、桜は見立てより 5 本多かった。雪は見立てどおりである。切り口の長さは、像の区間の和集合で測ると桜で周長の 1/22.7、梅で 1/28.8 になる。扇折りの 1/10 より短く、一刀切りは重なりが深い。折り線を増やす代わりに切る回数を減らす、その交換の値段が数で出た。

→ 家紋の対称群(D_n・手を持つ紋は鏡映を持たない)

→ 和柄の対称群(17 群と結晶学的制限)

→ ミウラ折り(平らに畳める折り線)

→ 吉村パターンの展開図

どう作ったか

生成器は generators/monkiri.js で、扇折りは D_n の像を並べて多角形の辺と突き合わせ、内角で 4 種に分けた。直線スケルトンは辺イベントと分割イベントの時刻を毎回全部計算し直して最小のものから処理する素朴な実装で、頂点が 30 までなので十分だった。対称な形では同じ時刻のイベントが重なるので、残りの頂点が同じ点に来ていたらまとめて閉じる。垂線は面の多角形の中で半直線を進めて境界との交点を取り、弧に当たれば鏡映で向きを変える。折り線図から面を辿るのは平面グラフの面の列挙(着いた節で、戻る向きから時計回りに最初の辺を取る)で、スケルトンの面と畳む面の両方に同じ関数を使った。畳んだ像は各面の変換を合成した結果で、帳簿の右側にそのまま描いてある。

出典

身近
紋切り遊び。紙を扇に折り畳んで切り、開いて紋を出す(ここでは折り線と切り口の幾何だけを使い、特定の型紙は写していない)
数理
一刀切り定理は E. D. Demaine・M. L. Demaine・A. Lubiw, Folding and Cutting Paper, JCDCG 1998(LNCS 1763, pp.104〜117)を Demaine のサイトの PDF で読んだ(要旨・p.1・p.5 の定理 1 と系 1)。直線スケルトンは O. Aichholzer ほか, J. Universal Computer Science 1 (1995) の p.753 の定義「縮めていくあいだに頂点が描く角の二等分線の断片の和」。川崎の定理と前川の定理は T. Hull, The Combinatorics of Flat Folds: a Survey(arXiv:1307.1065)の定理 2.1・2.2(川崎・Justin、前川・Justin に帰している)。紋切形の説明は平凡社『世界大百科事典』(コトバンク)
親戚
家紋の対称群・和柄の対称群・ミウラ折り・吉村パターン・Resch パターン
生成
generators/monkiri.js(monkiri.svg 桜の紋と折り線・monkiri-book.svg 帳簿。依存ゼロ・乱数ゼロ)