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ナスカの一筆書き

幅のある線で描いた図形の縁は、骨組みの周りを歩く 1 本の線である。1 本で描けるのは骨組みに輪がないときだけで、輪を 1 つ足すごとに線が 1 本増える。線は各辺の両側を 1 回ずつ通る。

赤褐色の地に、生成りの細い線で描いた枝分かれの図形 4 体。それぞれ渦巻きの尻尾を持ち、輪郭が 1 本の線でつながっている
乱数で育てた木(辺 50、渦巻きの尻尾つき)4 体の縁を、それぞれ 1 本の線で描いたもの。地は小石を除く前の赤褐色、線は小石を除いて出た明るい地面の色。線は各辺の両側を 1 回ずつ通り、葉の先で折り返し、1 か所だけ開いている。特定の地上絵は写していない。

なにか

ペルー南部のナスカの地上絵(前 500 年から後 500 年ごろ)は、地表を覆う鉄分を含んだ黒ずんだ砂礫を取り除き、下の明るい地層を出した線で描かれている。ペルー通商観光省の記録によれば、線の深さは 15 から 30 cm である。動物の図形は数十メートルから百数十メートルあるが、大きさは資料によって違う。ICOMOS の 1994 年の評価書はクモ 46 m・サル 55 m・ハチドリ 50 m、ペルー通商観光省の記録はコンドル 135 m・サル 135 m・クモ 42 m としている。図形が途切れない 1 本の線で描かれているかどうかは、見た範囲の UNESCO・ICOMOS・通商観光省の資料には書かれていなかった。ここでは、幅のある線で描いた図形の縁が何本の線になるかを問いとして扱う。

ここで見るのは「幅のある線で図形を描いたとき、その縁は何本の線になるか」という問いである。線の中心を骨組み(平面グラフ)、線の幅を 2r とすると、描かれた図形は骨組みの r 近傍で、その縁は近傍の境界である。答えは骨組みの形だけで決まり、特定の地上絵を写す必要はない。作ったのは規則と、その帰結である。

縁は骨組みの周りを歩く 1 本の線

木の骨組みとその縁が 1 本の図、輪を 1 つ足して縁が 2 本になった図、輪を切って 1 本に戻った図、カードの 4 体の帳簿の表
左から、木の縁は 1 本、輪を 1 つ足すと 2 本、輪を 1 か所切ると 1 本に戻る。砂色が骨組み、藍が縁、茜の破線が足した輪と切れ目。下は 4 体の帳簿で、歩いた長さと閉じた式と格子の等値線を並べた。

骨組みが木(輪のないつながった線の集まり)なら、縁は 1 本の閉曲線である。縁を「内側を左に見て」歩くと、辺 u→v を右側に沿って進み、v に着いたら v の周りで反時計回りに次の辺へ移る。葉なら半円で折り返す。この歩きは各辺をちょうど 2 回、両側を 1 回ずつ通って出発点に戻る。乱数の木 30 本で歩きの回数は 2E、閉曲線は 1 本、自分と交わる回数は 0 だった。

長さも書ける。骨組みの長さを L、頂点のまわりで隣り合う辺の隙間の角を α とすると、α ≥ π の隙間には半径 r の弧 r(α − π) が入り、α < π の隙間では両側の線が交わって 2r cot(α/2) だけ短くなる。縁の長さ = 2L + Σ r(α − π) − Σ 2r cot(α/2)で、歩いて測った長さと 10⁻⁹ で一致する。隙間の角の帳簿にはもう 1 つ、回転の恒等式がある。全部の隙間で Σ(α − π) = 2πV − π·Σdeg = 2π(V − E) となる(Σdeg は頂点の次数の和で、2E に等しい)。縁の総回転はこれに等しく、木なら V − E = 1 で必ず 2π、つまり 1 本の閉曲線が 1 回まわる。

独立の経路として、骨組みからの距離場を r/5 刻みの格子に置き、等値線 r を引いて閉曲線を数えた。30 本すべてで 1 本、長さは歩きと 0.5% 内で一致した(格子の等値線は弧を弦で近似するので少し短い)。

→ アンデスの噛み合う魚(同じナスカの壺の魚。こちらは噛み合いの規則)

輪の数だけ線が増える

木に弦を 1 本足して輪を作ると、縁は 2 本になる。輪の内側にもう 1 本の閉曲線ができるからで、輪を c 個にすれば c + 1 本。骨組みがつながっているなら輪の数は E − V + 1 で、これは縁の閉曲線の本数から 1 を引いたものに等しい。総回転も 2π(V − E) = 2π(1 − c) で、外側の縁が +2π、内側の縁 c 本が −2π ずつ回る。等値線で数えても、歩きで数えても、c = 1・2・3 で 2・3・4 本になった。

だから幅のある線で図形を 1 本に描きたければ、骨組みに輪があってはならない。目や輪郭の閉じた形を描くには、輪を 1 か所、幅 2r より広く切る。切ればまた木になり、縁は 1 本に戻る。渦巻きは輪に見えて輪ではない(道である)ので、いくら巻いても線は 1 本のままで、カードの 4 体の尻尾がそれにあたる。

数える側の罠が 2 つ。①格子の等値線を引くマーチングスクエアは、セルの 4 隅が交互に内外になる鞍点で線のつなぎ方が 2 通りある。固定で組むと縁の角の先に長さほぼ 0 の偽の輪が出て、閉曲線が 2 本に数えられた。セルの中心の値で解くようにして消えた。②格子の角の値がちょうど r に当たると長さ 0 の線分が輪として残る。長さが格子の刻み未満の輪は縮退として別に数えている。

→ コーラム(一筆書きの規則。こちらは線が交わる図)

→ 結ばれた輪(交差の数と輪の本数)

→ ヒルベルト曲線(線で面を埋める)

どう作ったか

生成器は generators/nazca-line.js で、でたらめな木を育て、その縁を歩いて 1 本の線にしている。木の辺の長さは帯の幅 2r に対して 5r から 12r、同じ頂点の辺の隙間は 45° 以上、隣り合わない辺は 2.6r 以上離し、葉の 1 つにアルキメデスの渦巻きをつなぐ。縁の長さは、歩いて測る方法と、距離場の等値線から測る方法の2通りで出し、1% 内で一致することを確かめた。

出典

史実
年代は UNESCO 世界遺産の頁(whc.unesco.org/en/list/700)の「紀元前 500 年から紀元 500 年のあいだ」と、ICOMOS の 1994 年の評価書の p.94(パラカス期 前 400〜200 年・ナスカ期 前 200〜後 500 年)。作り方は同じ評価書の p.94「鉄分を含む砂礫が風化で黒ずみ、それを除くと下の明るい地層が出る」。大きさは同 p.95(クモ 46 m・サル 55 m・ハチドリ 50 m)と、ペルー通商観光省の観光資源の記録(ficha 254。コンドル 135 m・サル 135 m・クモ 42 m、深さ 15〜30 cm)。2 つの資料でサルとクモの大きさが食い違う。「図形は 1 本の続いた線」は、見た範囲の資料には無かった
数理
連結な平面グラフの独立な輪の数 E − V + 1(オイラーの公式)。閉曲線の総回転が ±2π であること(回転数の定理)は H. Hopf, Compositio Math. 2 (1935) 50–62 の p.50 の「Umlaufsatz」による。Hopf は同じ頁で、この定理はおそらく Riemann にさかのぼると書き、自分は新しい証明を与えている。ここで確かめたのは、r 近傍の境界の本数・長さ・総回転が骨組みの帳簿から決まることだけ
身近
一筆書き・道路の白線で描く図・迷路の壁・アイロンで貼るワッペンの縁取り
親戚
アンデスの噛み合う魚・コーラム・結ばれた輪・ヒルベルト曲線・インカの石組
生成
generators/nazca-line.js(nazca-line.svg 4 体の一筆書き・nazca-line-book.svg 木と輪と切れ目の帳簿)