蛇口の水が玉になる長さ
蛇口の細い水が玉に切れるとき、くびれの間隔と玉の大きさを Rayleigh の式から計算し直す。いちばん速く育つくびれは糸の直径の 4.51 倍の間隔で並び、細い糸の近似では 4.44 倍になる。よく見る「π√2·d ≈ 4.51d」は、この 2 つの数を混ぜた書き方である。
なにか
半径 a の円柱の水に、波数 k の小さなくびれ r = a(1 + ε cos kz) をつける。表面張力は表面積を減らしたがるので、くびれが表面積を減らすなら育ち、増やすなら戻る。円柱の表面積は、波長が円周 2πa より長いくびれ(ka < 1)でだけ減る。これは Plateau が示したことで(Eggers と Villermaux の総説 §3.1 による。明示的に示したのは Beer が先だとも書かれている)、どの波が育つかを決めるのは糸の周長だけである。
どの波がいちばん速く育つかは、慣性の帳簿を足すと決まる。非粘性の円柱ジェットで Rayleigh が出した成長率は ω² = (σ/ρa³)·x(1 − x²)·I₁(x)/I₀(x)、x = ka(σ は表面張力、ρ は密度、I₀・I₁ は変形ベッセル関数)となる。Rayleigh の論文の式 (12) を変形ベッセル関数で書き直したものである。ここでは I₀・I₁ を級数で自前に実装し、既知の値(I₀(1) = 1.2660658778 など)と、I₀ の微分が I₁ になるという恒等式の 2 経路で確かめた。
2 つの模型で最速の波が 1.4% 違う
厳密な分散関係を黄金分割で最大化すると、x* = ka = 0.6970、波長は λ* = 2πa/x* = 9.014a = 4.507d、成長率の最大は ω* = 0.3433·√(σ/ρa³)になる。Rayleigh の論文の p.364 は x = 0.6970、λ = 4.508 × 2a を出し、表の x² = 0.5 の行に 0.3432 を載せている。
別経路として、細いジェットの 1 次元模型(Eggers と Villermaux の総説の式 (29)〜(31))が使う長波近似 I₁(x)/I₀(x) ≈ x/2 を入れると、ω² ≈ (σ/2ρa³)·x²(1 − x²) になる。この最大はちょうど x = 1/√2で、ω* = 1/√8、波長は 2π√2·a = π√2·d = 4.443d になる。閉じた形が出るのはこちらの模型である。
2 つの数は 1.45% 違う。「λ = π√2·d ≈ 4.51d」と書くと、式は長波近似の閉じた形、数値は Bessel の厳密解になっていて、同じ行に別の模型の数が同居する。π√2·d = 4.443d、Bessel の厳密は 4.507d である。どちらも正しいが、混ぜてはいけない。
玉の直径
1 波長分の円柱 πa²λ* がそのまま 1 つの玉になるなら、(π/6)D³ = πa²λ* から D = (6a²λ*)^{1/3} = 3.782a = 1.891d になる。よく言われる 1.89d はこの計算の値で、総説の本文には見つからなかった。長波近似の λ で同じ帳簿を閉じると 1.882d になる。実際にはくびれの糸が切れるときに小さな衛星滴が生まれ(Savart が最初に気づいたと総説の p.4 にある)、主滴はこれより少し小さくなる。衛星滴の大きさはここでは計算していない。かけ算第34号の続きで細い糸の 1 次元の模型を解くと、x = 0.697・Oh = 0.1 で体積の 1.81% が残った。カードの右端の小さな玉は模式である。
どう作ったか
- 分散関係
generators/rayleigh.js。I₀・I₁ は級数を 40 項まで足した(x < 3 で倍精度)。ω² を σ/(ρa³) で割った無次元の関数を黄金分割で最大化し、厳密と長波近似の両方の最速の波数・波長・成長率を出す。- ka < 1
- x(1 − x²) の符号がそのまま育つ/育たないの境になる。x = 1 で ω = 0、x > 1 で ω² < 0(振動するだけ)を格子で検査した。
- カードの糸
- 輪郭は r(z) = a(√(1 − ε²/2) + ε cos kz) とした。定数を √(1 − ε²/2) にすると、振幅 ε を育てても 1 波長の体積が πa²λ* のまま変わらない(帳簿が閉じる)。線形の輪郭なので、切れる直前の本物の形(くびれが細い糸になる)は描いていない。
- 玉
- 最後の列は同じ体積の玉を λ* の間隔に置いた。衛星滴の大きさは計算していないので模式である。
出典と権利
- 数理
- Lord Rayleigh, On the instability of jets, Proc. London Math. Soc. 10, pp.4〜13 は、Scientific Papers 第 1 巻(1899・archive.org)の論文 58 で読んだ(収録の注記は 1879 年)。分散関係は p.363 の式 (12)、x = 0.6970 と λ = 4.508 × 2a は p.364 の式 (17)(18) にある。J. Eggers と E. Villermaux, Physics of liquid jets, Rep. Prog. Phys. 71 (2008) 036601 は著者のサイトの写しで読んだ(1 次元模型は pp.12〜13 の式 (29)〜(31)、λopt = 9.01h₀ は p.5、衛星滴は p.4 と §4.7.1)。ここに書いた数はすべてこのギャラリーで計算し直したもので、2 つの模型の差と「混ぜた書き方」の指摘は実測である。
- 身近
- 蛇口の細い水・インクジェットの液滴・雨の糸・クモの糸の露(身近な例として挙げた)。
- 親戚
- ケルビンの航跡(流体・波の棚 第 1 弾)・泡の法則(同じ表面張力)・カテナリー(釣り合いの帳簿)
- 生成
- generators/rayleigh.js(rayleigh.svg カード・rayleigh-book.svg 帳簿)