かけ算第46号|雷文を色の帯にしてトンネルへ巻く × 和柄の対称群 × 家紋の対称群
鏡のない紗綾形をトンネルへ巻く
雷文のトンネルと同じ巻き方で、鏡の多い麻の葉と、鏡のない紗綾形を巻いた。麻の葉は 8 通り中 6 通りで鏡が残り、その顔ぶれはハニカムとまったく同じだった。紗綾形はどう巻いても鏡が残らず、回転だけが残る。裏返した紗綾形を巻くと、巻き方の 2 つの数を入れ替えた絵の鏡像になった。
なにか
雷文を色の帯にしてトンネルへ巻くでは、渦に巻いても、巻き方の向きを模様の鏡の軸に揃えると左右の鏡が残った。それなら、はじめから鏡を持たない和柄を巻くと何が残るか。鏡の軸が多い麻の葉と、鏡のない紗綾形で比べた。
麻の葉は、三角格子(間隔 1)の辺と、各三角形の重心から 3 つの頂点へ引いた線でできている。線は 30°・30°・120° の小さな三角形を敷き詰めるので、線からの距離の等高線は、小さな三角形ごとに内心へ縮めた相似な三角形になる。内接円の半径は 1 − √3/2 = 0.134 で、帯は距離 0.028・0.06・0.095 で塗り分けた。
紗綾形はここでの作図である。腕 (0, 0) → (2, 0) → (2, 2) を 4 回まわした卍を、(3, 3) と (3, −3) の格子に並べ、隣の卍の腕と 1 升あけて噛み合わせた。帯は雷文のトンネルと同じく升目の向きの正方形で距離を測り、0.15・0.3・0.45 で塗り分けた。
鏡の向きは、和柄の対称群の記事の判定の関数(鏡の向きを 15° おき、回転の中心を 5 か所で試す)で測った。麻の葉は 6 回回転・鏡 6 方向(0°・30°・60°・90°・120°・150°)・映進あり、紗綾形は 4 回回転・鏡なし・映進なしと出た。家紋の対称群で卍を正方格子に敷いたときの p4 と同じ組み合わせである。
麻の葉はハニカムと同じ顔ぶれで鏡が残る
巻き方は雷文のトンネルと同じ w = exp(ζ/α)、ζ = s·ξ、α = ω/(2πi) で、ω は模様を縦に m 周、横に拡大 n 段ぶん進む並進である。巻いた絵の鏡 w → e2iθw̄ は、模様の側では ξ → (α/ᾱ)ξ̄ に、α に直交する向きのずれを足したものになる。これは軸の向きが arg α の鏡で、模様にその向きの鏡があれば、巻いた絵にも鏡が残る。
見立ては「麻の葉は鏡の軸が多いので、雷文より多くの (m, n) で鏡が残る。鏡の向きの集合がハニカムと同じなので、残る (m, n) もハニカムと同じ」だった。当たった。麻の葉を縦 4√3 で 1 周・横 4 で拡大 1 段に置くと、8 通りの (m, n) のうち (1, 2) と (2, 1) を除く 6 通りで鏡が残った。雷文は 7 通り中 2 通りだった。
確かめは 2 経路で行った。予言は、検査機で測った鏡の向きに arg α が入るかで決めた。探索は式を使わず、巻いた絵に 500 点を置いて、鏡の前後で距離の値がいちばん食い違う大きさ E を、軸の角を 0.025° 刻みで動かして探した。鏡が残る 6 通りでは E が 2.1×10⁻¹⁵ 以下になり、(1, 1) で 8 本、(2, 2) で 16 本の軸が見つかった。(1, 2) と (2, 1) では E の最小が 0.105 で、鏡はなかった。ハニカムの予言と 8 通りすべてで同じ答えになった。鏡の向きの集合と並進の格子が同じなら、線の形が違っても答えは変わらない。
紗綾形は回転だけが残る
見立ては「紗綾形はどう巻いても鏡は残らず、回転だけが残る。回転の回数は、1 周 ω を並進の格子の座標で書いたときの最大公約数になる」だった。当たった。紗綾形を縦 24 で 1 周・横 24 で拡大 1 段に置き、8 通りの (m, n) で探索すると、E の最小は 0.43〜0.59 で、鏡は 1 本も見つからなかった。
回転の回数は、回転 w → eiβw で重なる β を同じ探索で数えた。(1, 0) で 4、(1, 1) で 8、(2, 2) で 16、(1, 2) で 4、(1, 3) で 8 になり、8 通りすべてで予言と一致した。紗綾形の並進の格子は (3, 3) と (3, −3) で、正方形の周期 6 ではない。周期 6 の升で数えた 4·gcd(m, n) では (1, 1) が 4、(1, 3) が 4 になり、m と n の偶奇が揃うときだけ 2 倍少なく出る。格子を正しく取らないと回数を取り違える。
裏返した紗綾形は、数を入れ替えた絵の鏡像
見立ては「紗綾形には鏡がないので、裏返した紗綾形を巻くと、元の紗綾形を巻いた絵とは別の絵になる」だった。当たったが、それだけでは終わらなかった。
模様を横軸で裏返した S′(ξ) = S(ξ̄) を (m, n) で巻くと、S を (m, −n) で巻いた絵の鏡像 w → w̄ になる。α の共役が (m, −n) の α になるからである。紗綾形は原点のまわりに 4 回回転するので、(m, n) で巻いた絵と (n, −m) で巻いた絵はまったく同じになる。2 つを合わせると、裏返した紗綾形を (m, n) で巻いた絵は、元の紗綾形を (n, m) で巻いた絵の鏡像になる。(1, 1)・(1, 2)・(2, 1)・(1, 3) で、2,000 点の値の差は最大 9×10⁻¹⁶ だった。
同じ (m, n) の元と裏返しは、回転と拡大では重ならない。巻いた絵を w → cw(c は回転と拡大)で動かして重ねる探索では、差の最小が (1, 1) で 0.387、(1, 2) で 0.411 だった。元 (1, 2) と元 (2, 1) も 0.537 で重ならない。探索が重なりを見落としていないかは、紗綾形を (1.3, 0.7) ずらして巻いた絵で確かめた。こちらは 2×10⁻¹⁴ まで詰めて重ねた。
図案としては、紗綾形の (1, 2) と (2, 1) は、裏返した紗綾形を使えば左右違いの対として作れる。麻の葉は鏡があるので、裏返しても同じ絵になる。
どう作ったか
生成器は generators/sayagata-tunnel.js で、巻き方・鏡の予言と探索・回転の探索は雷文のトンネルの生成器をそのまま読み込んだ。麻の葉の距離は、近くの三角形の辺と重心からの線への距離の最小で出した。紗綾形の絵は、卍 1 つの「線から r 以内」の縁を 0.05 刻みの格子で輪にし、卍の平行移動ごとに写した。像が数ピクセルより小さくなる中心は 1 色の円で埋め、中心に近い小さな卍や三角形は外側の帯を 1 本省いた。回転と拡大で重ねる探索は、拡大の対数 3 と 1 周を 120 × 240 の升に切り、いちばん小さいところを座標ごとに刻みを半分にしながら詰めた。
確かめていないこと。紗綾形はここでの作図で、伝統の紗綾形の寸法と比べていない。この絵が目にどう見えるか(渦が回って見えるか)は確かめていない。送りが軸に沿う映進は、巻くと鏡ではなく「鏡と拡大」の組になるが、その数は数えていない。麻の葉の小さな三角形の帯は、中心に近いところで真ん中の 1 本を省いたので、中心の近くは 3 色になっている。
出典
- 数理
- 巻き方と鏡の探索は雷文を色の帯にしてトンネルへ巻く(巻き方の出典は和柄を版画画廊の写し方で巻くの de Smit・Lenstra 2003)、鏡の向きの測り方は和柄の対称群の検査機をそのまま使った。巻いた絵の鏡が模様の本物の鏡に当たること、裏返しと入れ替えの恒等式、回転の回数の格子座標は自分で導き、数値で確かめた
- 親戚
- 雷文を色の帯にしてトンネルへ巻く・和柄を版画画廊の写し方で巻く・和柄の対称群・家紋の対称群・ハニカム
- 生成
- generators/sayagata-tunnel.js(sayagata-tunnel.svg 巻いた紗綾形・sayagata-tunnel-book.svg 帳簿)