鱗と瓦の重なり
タイル 1 枚を鱗 1 枚に見立て、毛並みの上手の鱗が下手の鱗に載るように重ねた。載る順が一周して戻る所では、下から順に 1 枚ずつ置いていく順番がない。そういう輪は、渦を巻くつむじのまわりにできると見込んでいたが、外れた。Penrose の菱形の屋根は、なじませる幅を 1 から 3 まで振ると、1.25〜1.64 のときだけ分け目のまわりに 5 枚の輪ができ、それ以外では 1 つもできなかった。Hat では鱗の半分ほどが、ピンホイールでは 9 割が、どこからも置き始められない輪に入った。
なにか
瓦も魚の鱗も、水が流れていく向きの上手の 1 枚が、下手の 1 枚の上に載る。屋根は軒から棟へ向かって 1 段ずつ葺けば、どの瓦も、自分が載る瓦より後に置ける。毛並みとつむじでは、タイル 1 枚ずつに毛の向きを持たせてなじませ、平面の上の流れを作った。その流れを水の流れと見て、タイルを鱗に見立てると、隣り合う鱗のどちらが上に載るかが決まる。
どちらが上かの関係は、隣どうしでしか決まらない。だから A が B に載り、B が C に載り、C が A に載る、という輪ができることがある。de Berg は 2017 年の論文の序文で、空間に置いた三角形のあいだで「下にある」の関係が輪になると、全体に矛盾のない上下の順(depth order)は存在しないと書き、輪になった三角形 3 枚を図 1 に描いている。輪は空間の中で作れる。作れないのは、下から順に 1 枚ずつ置いていく手順のほうである。de Berg は上下の順の使い道として、部品を 1 つずつ上から入れて組み立てる問題も挙げている。
Penrose のタイリングには、屋根と呼ばれたものが先にある。Verhoeff の 2025 年の報告によると、de Bruijn の学生だった Wieringa が、厚い菱形と薄い菱形の頂点を面の外へ持ち上げると、全部が同じ黄金菱形になることに気づき、de Bruijn がそれを「The Wieringa Roof」と呼んだ。アルミの菱形で作られ、Eindhoven 工科大学の数学談話室に 2012 年まで掛かっていた。この屋根の菱形は傾くだけで重ならない。ここでは菱形を平らなまま重ねる。
重ね方
床と毛並みは毛並みとつむじと同じものを使った。Penrose の菱形、Hat の帽子、ピンホイールの直角三角形の 3 つで、どれもタイル 1 枚の平均の面積を 1 にそろえ、中心から半径 80 の円の中にある約 2 万枚を鱗にした。毛並みは、タイルの毛の向きにガウスの重み(幅 σ)をかけて足したものである。
隣り合う 2 枚の鱗は、辺(の一部)を共有する。共有する線分の中点で毛並みの向きを見て、線分を A から B へ横切る向きの成分に線分の長さを掛け、共有する線分すべてで足した。これが正なら、流れは A から B へ向かうので、上手の A が B に載る。円の内側のタイルは、どれも周の全部を隣と共有していた。
輪は、「載る」の矢印をたどって出発した鱗へ戻れる鱗の集まり(強連結成分)として数えた。もう 1 つ、下から順に置いていく手順もそのまま試した。自分が載る鱗が全部置けた鱗から置いていき、最後まで置けずに残った鱗を数える。
Penrose の屋根は、ほとんどの幅で下から葺ける
Penrose の菱形では、σ=1・2・3 で輪が 1 つもできなかった。約 2 万枚の石板を、下から順に全部葺ける。σ を 1 から 2 まで 0.01 刻み、2 から 3 まで 0.05 刻みで振ると、輪ができるのは σ が 1.25 から 1.64 のあいだだけだった。1.25〜1.27 で 695 個、1.28〜1.29 で 445 個、1.30〜1.60 で 435 個、1.61〜1.64 で 320 個。
σ=1.5 の輪 435 個は、窓の中の分け目(毛が 4 方向へ分かれる指数 −1 の点)435 個と同じ数だった。縁に触れない 390 個の輪は、どれも 5 枚で、中に分け目を 1 つだけ囲み、つむじは 1 つも囲まない。輪の外まわりを歩くと、毛の向きは逆向きに 1 周した。輪はつむじではなく分け目にできた。窓の縁から 3 以上内側にある分け目 400 個は、どれも厚い菱形の中にあり、その菱形は輪の 5 枚の 1 枚だった。輪の 5 枚は、厚い菱形 3 枚と薄い菱形 2 枚の組み合わせだった。
石板を平面ごと寝かせると、輪の場所が変わる。毛を 15° 寝かせると、縁に触れない輪が 801 個できた。中の指数の和は +1 が 401 個、−1 が 400 個で、つむじと分け目の両方に輪ができた。30° では輪 495 個の全部がつむじを囲む。60° では輪どうしがつながって 110 個に減り、90° では 20,130 枚のうち 19,570 枚が 1 つの輪に入った。
Hat とピンホイールは、置き始める所がない
Hat の帽子では、σ=1.5 で 20,107 枚のうち 9,619 枚が輪に入った。縁に触れない輪は 254 個で、いちばん大きいものは 2,132 枚ある。中の指数の和は、0 が 113 個、+1 が 78 個、−1 が 39 個、−2 が 24 個だった。下から順に置いていく手順では、20,107 枚のうち 19,919 枚が最後まで置けずに残った。輪の上に載る鱗も、輪が置けないので置けない。
ピンホイールの直角三角形では、σ=1.5 で 20,115 枚のうち 18,523 枚が輪に入り、そのほとんどは窓の縁まで続く 1 つの大きな輪だった。σ=1・2・3 でも、輪に入る三角形は 18,649〜18,735 枚で変わらない。
輪の多さは、毛並みが回る強さで並んだ
輪の多さを決めていたのは、つむじの形ではなかった。式で決めた向きを同じ床に置いて確かめた。一方向にそろった向きと、1 点から湧き出す向きでは、Penrose・ピンホイール・正方形のどれにも輪ができない。1 点のまわりを回る向きでは、どの床でも窓の鱗のほぼ全部が 1 つの輪に入る。回る流れの中では、鱗をどこまでたどっても、上手へ戻ってこられる。
毛並みとつむじでは、毛並みを回る成分と湧き出す成分に分け、それぞれの 2 乗を足して比べた。σ=1.5 で Penrose は 0.00036、Hat は 0.68、ピンホイールは 9.2。輪に入った鱗の割合は、Penrose が 10.6%、Hat が 47.8%、ピンホイールが 92.1% で、同じ順に並んだ。同じ床に乱数の向きを置いた対照では、回る成分と湧き出す成分はほぼ同じ強さ(比 0.96〜1.05)になり、輪に入った鱗は 種 3 つの平均で Penrose が 59.1%、Hat が 76.7%、ピンホイールが 35.3% だった。Penrose と Hat は乱数より少なく、ピンホイールは乱数より多い。どの床でも、回る成分の多い向きほど輪に入る鱗が多かった。
ただ、湧き出すだけの向きでも、Hat の帽子では 10 個の小さな輪ができた。帽子は凹んだ形をしていて、隣と共有する線分が途中で折れ曲がる。この小さな輪ができる仕組みは確かめていない。
見立て
数える前に、見立てを 5 つ決めて進め方のメモに書いた。5 つとも外れた。
見立ての 1 つ目は、輪はどれも中の零点の指数の和が +1 で、分け目だけを囲む輪はない、だった。毛並みの零点のまわりを小さく一周したとき、流れが一周ずっと同じ向きに回るのは渦を巻くつむじだけなので、輪は渦のまわりにできると考えた。Penrose の 390 個の輪は全部が分け目だけを囲み、Hat でも和が 0 や −1、−2 の輪が半分を超えた。外れ。
見立ての 2 つ目は、縁に触れない輪の数は、毛並みとつむじで数えた渦を巻くつむじの数の ±20% に入る、だった。σ=1.5 で Hat は 254 個(渦 430 個)、ピンホイールは 21 個(渦 544 個)。ピンホイールの輪は 1 つにつながってしまい、数が合わない。外れ。
見立ての 3 つ目は、Penrose は毛を寝かせなければどの σ でも輪がほとんどなく、15° 以上寝かせるとつむじのほとんどに輪ができる、だった。σ=1.5 で 435 個の輪があり、寝かせる角度を 45° 以上にすると輪がつながって数が減った。外れ。
見立ての 4 つ目は、向きを入れ替えた対照と乱数の対照では、輪の数が渦を巻くつむじの数の ±20% に入る、だった。72 回のうち 9 回が入っただけだった。外れ。
見立ての 5 つ目は、輪に入った鱗の数と、下から順に置いて残った鱗の数が一致する、だった。輪の上に載る鱗も置けずに残るので、一致したのは輪が 1 つもないときだけだった。Penrose の σ=1.5 では、輪の鱗 2,135 枚に対して下から置けない鱗は 7,110 枚。上から順に剥がす手順と両方で残った鱗が、ちょうど輪の 2,135 枚になった。外れ。
どう作ったか
生成器は generators/scale-stack.js である。床と毛並みは generators/fur-whorl.js をそのまま呼んだ。隣り合う 2 枚は、辺を反時計回りにそろえ、同じ直線の上で向きが逆の辺の重なりを共有する線分にした。Hat の帽子とピンホイールの三角形は辺と辺がそろわないので、1 本の辺が 2 枚以上の隣と分かれて接する。輪は Tarjan の方法で強連結成分として数え、下から置く手順は Kahn の方法をそのまま使った。
輪の中の零点は 2 通りで数えた。1 つは、輪の鱗と輪に囲まれた鱗をまとめた領域の中にある零点の指数を足したもの、もう 1 つは、その領域の縁を細かく歩いて毛の向きが何周するかを数えたもの。σ=1.5 で Penrose は 390 個の輪の全部、Hat は 254 個のうち 252 個で一致した。刻みを半分にすると Hat も 254 個の全部で一致した。ピンホイールは 21 個のうち 9 個しか一致せず、理由は調べていない。
流れがほぼ 0 の組をどちらにも数えない閾値を、流れの大きさの 0.001・0.01・0.03 倍に上げても、Penrose の輪は 435 個のまま動かなかった。Penrose の輪をつくる矢印の流れは、どれも流れの大きさの 0.17 倍以上ある。Hat は 0.03 倍で 297 個が 239 個に、ピンホイールは 57 個が 72 個に動いた。
確かめていないこと。Penrose の輪が σ=1.25〜1.64 のときだけできる理由は調べていない。始まりの 1.25 は、毛並みとつむじで零点の数が一度に減る段差(1.26 付近)と重なるが、終わりの 1.64 は段差と重ならない。分け目が厚い菱形の中のどこにあるかは数えたが、そこから 5 枚の輪ができる仕組みは追っていない。窓は床ごとに中心 1 つだけで数えた。重なりの向きは共有する線分の中点 1 点の流れで決めていて、線分に沿って流れを細かく足したときに変わるかは見ていない。
出典
- 上下の順と輪
- M. de Berg「Removing Depth-Order Cycles Among Triangles: An Efficient Algorithm Generating Triangular Fragments」arXiv:1701.00679v2(2017 年 4 月 6 日)。2026 年 10 月 29 日に PDF を開いた。p.1〜2(「下にある」の関係と depth order の定義、cyclic overlap があると depth order は存在しないこと、図 1(i) の輪になった三角形 3 枚、使い道として部品を 1 つずつ入れて組み立てる問題)
- Wieringa Roof
- T. Verhoeff「How N. G. (Dick) de Bruijn Connected Mathematics and the Arts」Bridges 2025 Conference Proceedings p.317〜324。2026 年 10 月 29 日に PDF を開いた。p.321〜322(頂点を持ち上げると全部が黄金菱形になること、de Bruijn が名付けたこと、Eindhoven 工科大学の数学談話室に 2012 年まで掛かっていたこと)
- 数理
- 鱗の重ね方、輪の数え方、輪の中の零点の数え方、対照と較正の場の作り方は自分で組んだ
- 親戚
- 毛並みとつむじ・ペンローズ・タイリング P3・Hat タイル・ピンホイール・タイリング・ペンローズの三角形
- 生成
- generators/scale-stack.js(scale-stack.svg 表紙・scale-stack-book.svg 帳簿)。数値は generators/data/scale-stack/facts.json に書き出した