形の定数と対数の写像
幻視に決まって出るトンネル、放射、螺旋、蜂の巣を、脳の一次視覚野の上のまっすぐな縞と六角の模様から作る。下のスライダーで縞の傾きを動かすと、同心円が螺旋になり、放射の線になるまでを続けて見られる。
なにか
点滅する光を見つめたとき、寝入りばな、目覚めぎわ、ある種の薬物の作用のもとで、人は似かよった幾何学模様を見る。Klüver は 1928 年にこうした報告を集め、模様を 4 つの型に分けて「形の定数」と呼んだ。トンネルと漏斗、螺旋、蜂の巣や三角を含む格子、蜘蛛の巣の 4 つである。模様は両方の目に見え、目を動かすと一緒に動く。Bressloff たちの論文(2002)は、これを模様が外の世界ではなく脳の中で作られている証拠と読んでいる。
Ermentrout と Cowan(1979)は、出どころを一次視覚野(V1)に置いた。Bressloff、Cowan、Golubitsky、Thomas、Wiener(2001、2002)がこの説を引き継いで詳しくした。目に映る視野と V1 の表面の対応は、中心窩から十分離れたところでは複素対数になる。視野の点を極座標 (r, θ) で表すと、V1 の上の位置は (x, y) = (ln r, θ) に比例する。この対応のもとで、視野の対数螺旋は V1 の上の斜めの直線に、同心円と放射の線は縦と横の直線に写る。2002 年の論文は、トンネルと螺旋の型は V1 の上のさまざまな傾きの縞にあたると述べている。ここまでは論文を開いて確かめた。
このページでは逆向きに進む。V1 の上にまっすぐな縞と六角の模様を置き、それを視野へ戻して、4 つの型のうち 3 つを作る。蜘蛛の巣は明るさの模様ではなく線の向きの模様なので、ここでは扱っていない。
縞の傾きが、そのまま螺旋の角になる
V1 の上の縞を cos(kx·x + ky·y) と書く。縞の線が ln r の軸となす角を β とすると、tan β = −kx/ky である。視野へ戻した曲線について、中心から引いた線と曲線のなす角 ψ を計算すると、tan ψ = r·dθ/dr = −kx/ky になる。つまり ψ = β で、縞の傾きがそのまま螺旋の等角になる。複素対数が角度を保つ写像だからである。縦の縞(β = 90°)は同心円に、横の縞(β = 0°)は放射の線になり、そのあいだの傾きはすべて対数螺旋になる。
式を使わない確かめ方として、描いた折れ線そのものから角を測った。(kx, ky) = (4, 3) の縞では、式の値は −53.1301° になる。折れ線の点を 100、400、1,600 と増やすと、測った角とのずれは 0.0330°、0.0021°、0.0001° と、点の数の 2 乗に反比例して小さくなった。ほかの 4 通りの縞でも同じだった。
自分で動かす
左が V1 の上の模様、右がそれを視野へ戻した像である。ページを開いたその場で、上の図と同じ計算をしている。縞の傾きを 90° から 0° へ動かすと、同心円がほどけて螺旋になり、腕が立っていって放射の線になる。
- 波数 (kx, ky)
- 螺旋の角(式)
- 螺旋の角(絵から)
- 継ぎ目の食い違い
- 六角の N と間隔
左は縦長の長方形に描いた V1 の模様で、横が ln r、縦が θ。右はそれを円板の視野へ戻した像である
「腕の本数を整数にそろえる」を外すと、右の像の水平な線の上に継ぎ目が出る。六角の模様では m と n が山の並ぶ向きと大きさを決める。絵は点滅せず、スライダーを動かしたときだけ描き直す。
腕の本数は整数になる
視野を 1 周すると θ は 2π 進み、V1 の上では y が 2π 進む。このとき縞の位相は 2π·ky 進むので、ky が整数でなければ、1 周して戻ったところで模様が食い違う。食い違いの大きさは最大で 2|sin(π·ky)| になる。ky = 3 なら 0、ky = 2.9 なら 0.618、ky = 2.5 なら 2 で、白と藍がちょうど入れ替わる。数値で測った値も同じだった。
ky は螺旋の腕の本数にあたる。波数 |k| を決めると、腕の本数 m は 0 から |k| までの整数しか取れないので、螺旋の角も cos ψ = m/|k| を満たす飛び飛びの値になる。m = 0 が同心円で、m が |k| に等しいときが放射の線である。|k| が 6.3 のように整数でなければ、いちばん立った螺旋でも 17.75° の角が残り、放射の線にはなれない。視野がひとつながりの V1 に写っているとした場合の話で、実際の V1 が左右の半球に分かれていることは、下の「中心の近く」で触れる。
継ぎ目なく閉じる蜂の巣は、飛び飛びにしかない
六角の模様は、120° ずつ向きの違う 3 本の波の和で作れる。視野を 1 周して閉じるには、3 本とも ky が整数でなければならない。2 本の ky を m と n に取ると、波数は |k|² = 4(m² + mn + n²)/3 に決まり、山と山の間隔は 2π/√N になる。ここで N = m² + mn + n² である。N に出てくる整数は 1、3、4、7、9、12、13 と続き、2 や 5 や 6 は出てこない。向きも自由には選べず、(m, n) の組ごとに決まる。
N が 100 以下の模様を数えると 61 種類あった。向きが 0° のものが 10、30° のものが 5 で、残りの 46 は右巻きと左巻きの対になっている。数え方は 2 通り用意した。波数の側から (m, n) を総当たりする方法と、三角格子を円筒に巻く向きを総当たりする方法である。2 つの一覧は、大きさと向きが 4×10⁻¹⁶ の差で一致した。種類の数は N にほぼ比例して増え、その係数は π/(3√3) = 0.6046 になる。N が 25、50、100 以下の種類を実際に数えると 15、31、61 で、この式の値は 15.1、30.2、60.5 だった。
許された模様では、θ = 0 の線の上と θ = 2π の線の上で値が 2×10⁻¹⁴ まで一致する。同じ模様を 5° 回すと食い違いは 2.66 に、大きさを 5% 変えると 1.64 になり、継ぎ目が見える。三角格子を円筒に巻く数え方は、フィロタキシスで茎のまわりに葉を並べるときの数え方と同じ形をしている。
中心の近くでは対数から外れる
ln r は r = 0 で発散するので、視野の中心まで対数で通すことはできない。2002 年の論文は、網膜の細胞の密度を 1/(w₀ + εr)² と置いて対応を導き、人の網膜のデータから w₀/ε を視角 1.7° と見積もっている。この密度を半径の方向に積分すると x = ln(1 + r/a)、円周の方向に積分すると y = θ·r/(a + r) になる(a = w₀/ε)。もう 1 つ、左右の半視野ごとに ln(z + a) を当てる形も知られている。こちらは Schwartz(1977)の名で引かれるが、原論文は開いていない。どちらも a より十分外では ln r に近づく。ここでは a を助変数として扱い、2 つの形で模様がどう歪むかを式で出した。
ln(z + a) の形では、同心の輪は半視野ごとに中心が a だけずれた円弧になる。左右の弧は縦の子午線の上で出会い、そこで 2·asin(a/R) だけ折れる。R は弧の半径である。折れの角は R が a の 2 倍で 60°、5 倍で 23.07°、10 倍で 11.48°、20 倍で 5.73° になる。写像の式を数値で微分して測った角とは 0.006° 以内で合った。腕が m 本の螺旋では、縦の子午線の高さ t のところで左右の位相が 2m·atan(a/t) だけ食い違う。食い違いが縞の 4 分の 1 周期より小さくなるのは t が a/tan(π/4m) より外で、腕 1 本で a、3 本で 3.73a、6 本で 7.60a になる。腕の多い螺旋ほど、中心のまわりの広い範囲で左右がつながらない。
密度を積分した形では、縦の縞は同心円のままで、輪の半径は a(e^(2πj/kx) − 1) になる。kx = 40 なら、内側の輪の間隔は 0.170a、0.199a、0.233a とゆるやかに広がり、外では隣との比が e^(2π/kx) = 1.170 の等比になる。横の縞は放射の線に戻らない。中心を通らず、放射の線から c·a だけ横にずれた、ほぼまっすぐな線になる(c は線の向きの角)。斜めの縞の螺旋の角は tan ψ = −kx/ky − θ·a/(a + r) となり、θ によって変わる。(kx, ky) = (4, 3) の縞は、対数なら −53.13° の螺旋になる。密度の形では、θ = 0.6 の向きで r = 2a のとき −56.89°、r = 10a で −54.23°、r = 100a で −53.25° だった。
どう作ったか
V1 の上の帯を長方形で切り取って多角形にし、辺を細かく割ってから視野へ写して塗った。六角の模様は、3 本の波の山がそろう点を格子として数え上げ、点ごとに小さな円板を置いた。V1 の絵は縦横を同じ縮尺にしてあるので、縞の傾きは絵の上の角度として読める。外部のライブラリも乱数も使っていない。
数字を出す前の見立ては 5 つあった。1 つ目は、縞の傾きと螺旋の角が一致する。2 つ目は、継ぎ目の食い違いが 2|sin(π·ky)| になる。3 つ目は、閉じる六角が m² + mn + n² の整数で飛び飛びになり、2 通りの数え方が一致する。4 つ目は、ln(z + a) の輪が 2·asin(a/R) だけ折れる。5 つ目は、密度の形で螺旋の角が θ·a/(a + r) だけずれる。どれも式から先に出したもので、数値はすべて合った。見立てになかったのは、密度の形で放射の線が中心を通らないずれた直線になる点で、絵を描いて初めて気づいた。
確かめていないこと。V1 でなぜ縞や六角ができるのか、どの模様が選ばれるのかは扱っていない。V1 は実際には左右の半球に分かれていて、半視野どうしは縦の子午線でつながる。論文は、半球のあいだの結合が像を子午線の上で連続に保つと述べているが、その仕組みはここでは模型にしていない。腕の本数や六角の N が整数になる話は、視野がひとつながりに閉じる場合の条件である。密度の形の y = θ·r/(a + r) は、論文が置いた密度から自分で積分して出した式で、論文の式そのものと突き合わせてはいない。a = 1.7° は論文が挙げた値で、ほかの測定とは比べていない。Klüver の原著、Ermentrout と Cowan(1979)、Schwartz(1977)は開いておらず、2002 年の論文が引いている範囲で書いた。このページの絵を見て幻視が起きるわけではなく、幻視を勧めるものでもない。
出典
- 身近
- 形の定数。H. Klüver, "Mescal and Mechanisms of Hallucinations" (1966) の分類として、下の 2002 年の論文が引いている。原著は開いていない
- 数理
- P. C. Bressloff, J. D. Cowan, M. Golubitsky, P. J. Thomas, M. C. Wiener, "What Geometric Visual Hallucinations Tell Us about the Visual Cortex", Neural Computation 14 (2002) 473–491 を開いて読んだ。複素対数の対応、螺旋が斜めの直線に写ること、密度 1/(w₀ + εr)² と w₀/ε = 1.7° はこの論文による。詳しい版は同じ著者の Phil. Trans. R. Soc. Lond. B 356 (2001) 299–330。G. B. Ermentrout と J. D. Cowan, Biol. Cybernetics 34 (1979) 137–150、E. Schwartz, Biol. Cybernetics 25 (1977) 181–194 は、この論文の文献表による。螺旋の角、継ぎ目の条件、六角の数え上げ、中心の近くの式は自分で導いた
- 親戚
- 点滅光と皮質の模様・皮質の縞と六角形・蜘蛛の巣の幻視と、向きごと回す対称性・インドラの網・目を共有する顔と壁紙群・対数螺旋・チューリング・パターン・フィロタキシス・周辺ドリフトと扇の弧
- 生成
- generators/form-constants.js(form-constants.svg 4 つの型・form-constants-book.svg 帳簿)と gallery/assets/form-constants-live.js(写像と模様の計算。図と「自分で動かす」で共有)