目を共有する顔と壁紙群
幻覚の記録には、顔が列をなして増え、視野を埋めていく様子が出てくる。そこまで顔が詰まるなら、隣の顔と目を共有して並べられるだろうか。左右対称な顔を平面の繰り返し模様の 17 種類の対称性に当てはめ、1 つの目に何人の顔が集まれるかを群ごとに数えた。
なにか
Klüver は 1928 年のメスカリンの本で、「顔が 1 列に 3 つ、4 つと現れ、その上に新しい列が現れる」という記録を引いている(Beringer 1927 からの引用)。DMT の体験談 3,778 件を読み分けた Lawrence ほか(2022)では、顔か目が出てくる体験が 90 件(2.4%)あった。寝入りばなに、しかめ面の頭が大勢現れたという記録は、1865 年の Maury の本にある。ただし、隣の顔と目を共有する形は、ここで読んだ資料には書かれていなかった。目の共有は、顔が詰まって並ぶならどうなるかというこのページの問いである。この種の体験を描いた作家の絵もあるが、このページには載せず、似せてもいない。顔は楕円の輪郭と目 2 つと口だけの記号にした。このページは薬物を勧めるものではない。
平面を埋める繰り返し模様の対称性は 17 種類しかない。和柄の対称群で和柄を分類したのと同じ 17 種類で、壁紙群と呼ばれる。顔の並びも繰り返し模様である限り、どれかに入る。群が決まると、顔の目を置ける場所と、1 つの目に集まれる顔の数が決まる。その数を 17 種類すべてで求めた。
顔の決まりごと
顔は左右対称で、2 つの目を結ぶ線の垂直二等分線が顔の軸になる。顔の中心はこの軸の上の、目より下にある。模様は、1 つの顔を群のすべての動きで写して作る。
数える前に条件を 2 つ置いた。1 つ目は読める顔であることで、顔の中心にいちばん近い目 2 つが、その顔自身の目でなければならない。よその目のほうが近いと、どの目が誰のものか分からなくなるからである。2 つ目は、模様の対称性が並べるのに使った群そのものであることだ。左右対称な顔を置いたせいで、模様が思わぬ鏡を持つことがある。そのときは模様が大きい群に化けたとみなし、もとの群の例には数えない。
数える前の見立て
見立ては 3 つあった。まず、顔の軸を模様の鏡に乗せられるのは、鏡を持つ 10 種類の群だけだと考えた。次に、目を共有するには、その目が回転の中心か鏡の上になければならないと考えた。最後に、1 つの目に集まれる顔の数はその点を動かさない対称操作の数(固定群の大きさ)で決まり、最大は p6m の 6 回回転の中心の 12 になると見込んだ。
1 つの目に集まる顔の数
ある目に集まる顔の数は、次の掛け算で決まる。その目の点を動かさない対称操作の数に、顔の 2 つの目のうちその点と同じ仲間に入る目の数を掛ける。同じ仲間とは、群のどれかの動きで互いに重なる点のことである。顔の軸が鏡に乗っているときは、左右の目が鏡で入れ替わって最初から同じ仲間なので、掛ける数は 1 に数える。軸が鏡に乗っていなければ、掛ける数は 1 か 2 になる。
1 つ目の見立ては当たった。顔の軸を鏡に乗せられたのは pm・cm・pmm・pmg・cmm・p4m・p4g・p3m1・p31m・p6m の 10 種類で、鏡を持つ群とちょうど一致する。
2 つ目の見立ては外れた。平行移動しか持たない p1 でも、すべての目を 2 人の顔で共有できる。顔を横一列に並べ、右の目と隣の顔の左の目が重なるように間隔をとればよい。p1 の目の点を動かす対称操作はないので固定群の大きさは 1 だが、左目と右目が平行移動で重なる同じ仲間になるので、掛ける数が 2 になる。回転の中心も鏡もいらない。17 種類のどの群でも、すべての目を 2 人以上で共有する読める顔の並びが見つかった。
3 つ目の見立ての最大 12 は当たった。ただし 12 人が集まるのは片方の目だけで、両方の目に 12 人ずつ集めようとすると、上下逆さの顔と両目をそっくり共有する組になる。両目をそっくり共有する相手のいる顔を、ここでは双子と呼ぶ。双子を除くと、p6m で両方の目に集まるのは 4 人ずつまでである。
2 倍に届く群、届かない群
掛け算の形から、1 つの目に集まる顔の数の上限は、固定群の最大の大きさの 2 倍になる。読める顔の範囲でこの上限に届いたのは、p1・p2・pg・cm・pmg・pgg・cmm の 7 種類だった。残りの 10 種類は、固定群の最大の大きさちょうどで止まった。
届くかどうかは、読める顔の目がどこに置けるかで決まる。顔の中心は 2 つの目から同じ距離にあり、ほかのどの目よりも近い。これは、目の点ごとにいちばん近い場所を塗り分けたボロノイ図で、2 つの目の領域が辺で接していて、顔の中心がその辺の上にあるということである。読める顔の両目は、ボロノイ図で隣り合う目どうしに限られる。
2 倍を狙うには、両目を固定群のいちばん大きい点に置き、しかも 2 つを同じ仲間にする。そのうえで、ボロノイ図で隣り合う 2 点の垂直二等分線を顔の軸にする。この軸がすでに模様の鏡なら、顔の軸が鏡に乗り、掛ける数は 1 に戻る。軸が模様の鏡でなくても、左右対称な顔を置くと模様全体がその軸で折り返して重なることがある。そのときは模様がより大きい群に化ける。p4 は p4m に、p6 は p6m に化けた。
2 倍に届かない 10 種類では、隣どうしの垂直二等分線がどれも、模様の鏡か、模様を化けさせる軸のどちらかになった。模様の鏡になるのが p3m1・p4m・p6m・pmm、化けさせるのが p3・p4・p6・p31m、両方が混ざるのが pm と p4g である。届いた 7 種類には、どちらにも当たらない隣どうしがある。p1 と p2 では、斜めの格子の隣どうしがそれに当たる。長方形と斜めの格子は形を 3〜4 通り振ったが、この分かれ方は変わらなかった。
届いた 7 種類のうち、p2・pmg・cmm は双子の組でしか 2 倍にならない。p2 では、同じ仲間の 2 つの回転の中心のちょうど真ん中に必ず別の回転の中心があり、そこで半回転すると両目が入れ替わった逆さの顔が重なるからである。双子なしで 2 倍に届くのは p1・pg・cm・pgg の 4 種類になる。
顔の軸を鏡に乗せたとき
顔の軸が鏡に乗っている並びに限ると、双子なしで両方の目に集まる人数がいちばん多いのは p3m1 の 6 人ずつだった。すべての目に 6 人の顔が集まり、どの顔も左右対称のまま置かれる。次が p4g・p4m・p6m の 4 人ずつである。p4m と p6m には、固定群の大きさが 8 と 12 の点があるが、軸を鏡に乗せたまま両方の目にその人数を集めると、双子の組になる。
どう作ったか
17 種類の群を、国際結晶学表の座標の書き方で打ち込んだ。記憶から打ったので、群の動きだけを見て名前を当て直した。いちばん大きい回転、鏡の有無、鏡ではない映進の有無、回転の中心が鏡に乗るかを順に調べる分類の手順で、17 種類すべてが打ち込んだ名前に戻った。回転の中心と鏡の交わる点の数も Conway の記号と一致した。
目の位置は格子の 12 分の 1 刻みで総当たりし、もう一方の目は近くのすべての刻み点に置いた。顔の中心は目の垂直二等分線の上に 10 通りの高さで置いた。読める顔では、顔の中心から自分の目までの距離が格子の被覆半径を超えられない。被覆半径は、平面のどの点からも最寄りの格子点までの距離の最大である。そのため目の間隔は被覆半径の 2 倍までを調べれば足りる。長方形の格子は縦横比を 4 通り、斜めの格子は形を 3 通り振った。目に集まる顔の数は、上の掛け算と、顔を実際に並べて同じ場所に来た目を数えるやり方の 2 通りで求めて突き合わせた。
確かめていないこと。読める顔の条件は、このギャラリーで決めたもので、人が顔として読むかどうかを確かめたものではない。顔の中心の高さは 10 通りしか試しておらず、長方形と斜めの格子の形も数通りしか振っていない。試していない形の格子で、新しい人数の組が出る可能性は残る。記録の中の顔の並びが、どの群に近いかは調べていない。
出典
- 身近
- 顔が列をなして増える幻覚の記録: H. Klüver, Mescal: The 'Divine' Plant and Its Psychological Effects (1928) p.53(K. Beringer, Der Meskalinrausch (1927) からの引用。Internet Archive の全文で読んだ)。DMT の体験談の分析: D. W. Lawrence, R. Carhart-Harris, R. Griffiths, C. Timmermann, "Phenomenology and content of the inhaled N, N-dimethyltryptamine (N, N-DMT) experience", Scientific Reports 12, 8562 (2022)(全文で読んだ)。寝入りばなの顔: A. Maury, Le sommeil et les rêves, 第 3 版 (1865) p.146。顔が目を共有する形は、これらの資料にも、論文データベース Europe PMC の全文検索にも見当たらなかった
- 数理
- 17 種類の群の表: International Tables for Crystallography, Vol. A (2016) 2.2 章 "The 17 plane groups"。群の座標は記憶から打ち、上の手順で名前を当て直した。点を動かさない対称操作の最大の数は、この表の特殊位置と 17 種類すべてで一致した。orbifold の記号と「値段の合計が 2」: J. H. Conway, "The orbifold notation for surface groups", Groups, Combinatorics and Geometry, Cambridge University Press (1992) pp.438–447。17 種類の模様だけが 2 ドルをちょうど使い切る、という書き方はこの論文による
- 親戚
- 和柄の対称群・蜘蛛の巣の幻視と、向きごと回す対称性・家紋の対称群・形の定数と対数の写像・江戸小紋三役と格子の向き
- 生成
- generators/eye-lattice.js(eye-lattice.svg p3m1 で 1 つの目に 6 人が集まる並び・eye-lattice-book.svg 帳簿)。17 種類の総当たりの結果は generators/eye-lattice-scan.json に置いた