かけ算第29号|ファラデー波 × ドデカゴナル
消せない位相が明るさを決める
半分の速さで立つ模様で足した 12 の波と、ドデカゴナルを作る de Bruijn の 6 重格子は、同じ 6 方向の線の族である。線の族の位相を揃えて 2 つを重ねたら、まず 6 つの位相のうち 2 つが冗長だと分かった。e₀ − e₂ + e₄ = 0、e₁ − e₃ + e₅ = 0 という 2 本の整数関係があるので、平行移動で消せない位相は Γ₁ = γ₀ − γ₂ + γ₄ と Γ₂ = γ₁ − γ₃ + γ₅(mod 1)の 2 つだけである。この 2 つが模様の明るさの上限 sup f = 3cos(2πΓ₁/3) + 3cos(2πΓ₂/3) を決める。ドデカゴナルの位相では 5.2536 で、576 万点の格子の最高 5.2514 がそれを下から押さえる。位相ゼロなら 6 に届く。明るい点の密度は η² ではなく (η − ηmin) に比例し、内部空間は 4 次元でなく 2 次元になる。回折の山は、明るい点が波長 1 の目盛り、タイリングの頂点が 1/3 の目盛りに立つ。同じ加群の、別の目盛りと別の窓である。
冗長な位相
12 の波は f(x) = Σj cos(2π(ej·x − γj))、ej は 30° おきの 6 方向の単位ベクトルである。位相 γj は 6 つあるが、x を動かせば ej·d のぶんだけ 6 つが一斉にずれる。それでも消せない組み合わせがある。12 次の円分多項式 ζ⁴ − ζ² + 1 = 0 は、単位ベクトルの言葉で e₄ = e₂ − e₀、e₅ = e₃ − e₁ と読める(1e−15)。だから残差 rj = ej·x − γj − nj(nj は最寄りの整数)は、どんな x でも r₀ − r₂ + r₄ ≡ −Γ₁、r₁ − r₃ + r₅ ≡ −Γ₂(mod 1)を満たす(乱数 2,000 点で 1e−12)。Γ₁ と Γ₂ は模様ごとに固定された数で、準結晶の言葉ではフェイゾン座標にあたる。
ここから明るさの上限が出る。f が 6 に近いのは 6 つの残差が全部小さいときだが、Γ₁ ≠ 0 なら r₀ − r₂ + r₄ = −Γ₁ を分け合わなければならず、最も明るいのは 3 つで等分したときである。sup f = 3cos(2πΓ₁/3) + 3cos(2πΓ₂/3) になる。ドデカゴナルの位相(0.121, 0.253, 0.407, 0.089, 0.331, 0.177)では Γ₁ = 0.045、Γ₂ = 0.341 で上限 5.2536 になる。120×120 の格子(576 万点)で探した最高は 5.2514 で、上限の下 5e−3 以内だった。上限は近づけるが届かない(山の高さは無限に種類がある、の正体)。位相をゼロにすれば Γ = 0 で 6 に届き、原点に全部の山が集まる。
内部空間は 2 次元
12 の波の模様は「6 次元格子 Z⁶ を 2 次元の面で切って射影したもの」と説明されることが多いが、位相が 2 つ冗長ということは、格子は Z⁶ でなく Z⁴(Z[ζ₁₂])で、内部空間は 4 次元でなく 2 次元ということである。それは数えれば分かる。f > 6 − η の山(明るい点)を数えると、η < ηmin = 6 − sup f = 0.746 では 1 つもなく、それより上では山の数が (η − ηmin) に比例する(直線からのずれ 7% 以内)。内部空間が 4 次元なら窓は 4 次元の楕円体で数は η² に比例するはずで、N(1.5)/N(0.9) は 2.78 のはずだが、実測は 5.38 だった。2 次元の窓(円)の予言 4.91 のほうに近い。周期の模様(4 方向)は同じ数え方で 810 個のまま動かない。
明るい点は「6 本の線が同時に近くを通る点」で、η = 1 の山 80 個すべてで 6 − f ≈ 2π²Σrj² が 0.15 以内、残差はどれも 0.3 未満だった。切り出し射影の窓が丸い(残差の 2 乗和で切る)ことがここに出る。
同じ加群、別の目盛り、別の窓
回折で見ると、2 つの点集合の関係が整理できる。明るい点(η = 1.2・137 個)のコヒーレンス |Σeiq·x|²/N² は、12 の基本波数 q = 2πej で 0.885 以上、2π(e₀ + e₁) で 0.968、15° や 45° ずらすと 0.01 以下になる。一方、ドデカゴナルの頂点(5,208 個)は 2πej では 1e−3 以下で暗く、最強の山は |q| = 7.008 = (2π/3)|e₀ + e₁ + e₂ + e₃| にあって、(2π/3) と整数結合 (−2, −1, 1, 2)·(e₀, e₁, e₂, e₃) で書ける。12 回転で等しい(比 1.028)。単位ベクトルの和 Σej ⊗ ej = 3I の双対が 1/3 の目盛りを作る。同じ Z[ζ₁₂] の加群の上で、明るい点は波長 1 の目盛りに、頂点は 1/3 の目盛りに山をもち、窓の形(明るい点は丸・頂点は多角形)が強度を、加群が位置を決める。
双対の帳簿も閉じる。6 重格子の線の交点の数はタイルの数にちょうど等しく(R = 6/9/12 で 1263・2846・5063)、交点の密度 sin φ の和 × 面積の予言から 1% 以内に入った。タイルの比は 30° 菱形 : 60° 菱形 : 正方形 = 1 : √3 : 1(R = 12 で 1.731・0.995)。この比は交点の密度 sin30° : sin60° : sin90° に対の数 6 : 6 : 3 を掛けたものである。
続き: 30° はどこから来るか
実験で 12 回対称が立つのは、2 つの振動数 mΩ・nΩ を重ねた駆動(Edwards と Fauve 1993 の 4:5)である。素朴な筋は「2 つの駆動が立てる 2 つの波 km・kn の三波共鳴が 30° を選ぶ」だが、これは成り立たない。n > m なら kn/km は常に 1 より大きく、差の共鳴 2km sin(θ/2) = kn の角は 60° を下回らないからである。文献が指すのは別のモードで、2 つの駆動の積から二次で駆かれる「差の振動数」(n − m)Ω の調和モード kd である。Topaz と Silber(2002、arXiv:nlin/0111039)は要旨で、差の振動数の共鳴が超格子の模様の安定に大きな役を果たすと書いている。振動数が低いぶん波数が小さく、粘性の減衰 2νk² も小さい。ここで出せるのはその三波の角の幾何だけで、2ks sin(θ/2) = kd(ks は立つ波 mΩ/2 の波数)から θ = 2 asin(ρ/2)、ρ = kd/ks となる。深水の分散 ω² = gk + σk³/ρ で、表面張力だけなら k ∝ ω2/3 だから ρ = (2(n − m)/m)2/3、重力だけなら k ∝ ω² だから ρ = (2(n − m)/m)²。実際の ρ は駆動の基本振動数 f0 でこの間を動く。
2:3 では n − m = m/2 なので差のモードは立つ波そのもの(ρ = 1)で、どの振動数でもどの液体でも角は 60°=六角。12 回対称は 2:3 では出ない。4:5 は重力の極限で 14.4°、表面張力の極限で 36.7° と動き、水(σ = 0.0728 N/m)では f0 = 10.97 Hz でちょうど 30° を跨ぐ(立つ波 21.9 Hz・波長 11.0 mm)。3:4 は 4.96 Hz、5:6 は 32.6 Hz になる。6:7 は表面張力の極限でも 27.8° 止まりで 30° に届かない。差のモードの減衰は表面張力の極限で立つ波の ρ² 倍(4:5 で 0.40)である。
ここで出していないことを書いておく。このモードが本当に 12 回対称を選ぶかは、振幅方程式の三次の結合係数が角 θ でどう変わるか(Zhang と Viñals 1997 は、三次の係数が共鳴の角で大きな正の山を持つと書いている)に掛かっていて、その係数はまだ自前で出していない。上の表は「30° を跨ぐ振動数がある」までで、「だから 12 回対称が立つ」は、ここでは示していない。
どう作ったか
- 位相
generators/faraday-dodeca.js。dodeca.js の方向と位相(多重格子のオフセット)をそのまま使い、Γ₁・Γ₂ を還元して上限を出す。格子の最高は 4,800×4,800 の全点を舐める。- 密度
- 山は 8 近傍より高い格子点を放物線で詰める。η = 0.7〜1.5 を 120×120 で数え、原点を通る直線 N = c(η − ηmin) に当てて相対残差を見る。
- 回折
- コヒーレンスは かけ算第19号と同じ物差し。頂点の山は |q| ∈ [1, 8] を 0.05 刻みで走査してから山登りで詰め、(2π/3) で割った q を e₀〜e₃ の整数結合(−5〜5 の総当たり)で当てる。
- 罠
- 最初は η² の 4 次元の窓を予言に置き、η = 0.5 で山がゼロなのを「格子が粗い」と読みかけた。格子の最高(5.25)が 6 に届かないことから位相の拘束に気づいた。「準結晶の Z⁶」は方向の数であって格子の階数ではない。
検査
出典と権利
- 数理
- 12 回対称のタイリングが内部空間 R² の切り出し射影で作れることは Baake と Grimm, arXiv:1205.3633 の p.12(φ(12) = 4)、de Bruijn の多重格子との双対は Lutfalla と Perrot, arXiv:2402.01257 の p.1 で確かめた。駆動は W. S. Edwards と S. Fauve, Phys. Rev. E 47 (1993) R788、差の振動数は C. M. Topaz と M. Silber, Physica D (2002)(arXiv:nlin/0111039)、三次の係数は W. Zhang と J. Viñals, J. Fluid Mech. 336 (1997) 301(arXiv:patt-sol/9607006 の p.13)。ここに書いた数(位相の不変量・明るさの上限・密度の η 依存・回折の目盛り・双対の帳簿)はすべてこのギャラリーで計算したもの。
- ギャラリー内
- 波は半分の速さで立つ模様(発見93)、タイリングはドデカゴナル、物差しはかけ算第19号と第28号。
- 生成
- generators/faraday-dodeca.js(faraday-dodeca.svg カード・faraday-dodeca-book.svg 帳簿)
つながり: 半分の速さで立つ模様・ドデカゴナル・アンマン–ビーンカー(8 方向なら位相の冗長はない: 4 方向に整数関係がない)・見取り図の発見94