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半分の速さで立つ模様

スピーカーの上に水の皿を置いて低い音を入れると、水面に格子や六角形の模様が立つ。その模様は、入れた音の半分の振動数で揺れている。Faraday は 1831 年の論文で、液体の盛り上がりは板の振動の 2 倍の時間で繰り返すと書いた。ここでは、水面の各モードが従う Mathieu 方程式を Floquet の方法で解き、「半分」の理由と、揺れ始める閾値を数で出した。そのうえで、12 の波を足して 12 回対称の模様(Edwards と Fauve が 1993 年に観察した)を作り、周期の模様とどこが違うかを測った。不安定域(舌)の縁は級数と 3e−6 で一致し、縁での Floquet 乗数は −1=周期が 2 倍になる。減衰 β を入れると閾値は qc = 2β ちょうどで、最小は駆動の半分の振動数のモードにある。12 の波を足した模様は 30° 回転で不変で、周期の模様と違って山の高さが全部違う。

生成りの地に、藍の等高線で描いた 12 回対称の水面。低い等高線は薄く細く、高いほど濃く太く、山の頂は塗った円。同じ形の丘が 12 回対称の星のように並ぶが、二つとして同じ高さの丘はない
12 の波(30° おきの 6 方向、それぞれ往復)を足した水面を等高線で描いたもの。ドデカゴナル・タイリングと同じ位相を使っている。丘の形はどれも似ているが高さは全部違う。

なにか

水面を上下に揺すると、重力が周期的に強くなったり弱くなったりするのと同じことになる。τ = Ωt/2 と置くと、波数 k のモードの振幅 y は y″ + 2βy′ + (a − 2q cos 2τ) y = 0 に従う。Benjamin と Ursell が 1954 年に「Mathieu 方程式の系」として導いた式である。a = (2ωk/Ω)² はモードの固有振動数と駆動の比、q は変調の深さ、β は減衰である。これは Mathieu 方程式で、係数が周期的なので「振幅が育つか」は 1 周期進めたときの基本行列(Floquet の乗数)で決まる。乗数の大きさが 1 を超えるモードだけが立つ。

舌と、半分の理由

上段に Mathieu の安定図(灰の舌)と級数の縁、右に Floquet と級数の表と乗数、中段に減衰つきの閾値の曲線と水の例、下段に 4 方向・6 方向・12 方向の模様の等高線と山の高さの統計
帳簿。①安定図と第 1 の舌の縁(数値 vs 級数)②縁での Floquet 乗数 ③減衰つきの閾値 qc(a) ④水の例 ⑤4 方向・6 方向・12 方向の模様と山の高さ。

減衰なしで a と q を走査すると、不安定域が a = 1, 4, 9, … から舌のように伸びる。第 1 の舌(a ≈ 1)の縁を二分法で追い、Mathieu 関数の級数 a₁ = 1 + q − q²/8 − q³/64 … と b₁ = 1 − q − q²/8 + q³/64 … に比べた。差は q = 0.05〜0.4 で 3e−6 以内だった。Floquet の数値積分と級数の 2 経路である。この縁の上で Floquet 乗数を読むと −1 になる。1 周期で符号が反転するので、揺れの周期は駆動の 2 倍、振動数は半分になる。第 2 の舌(a ≈ 4)の縁では +1 で、こちらは駆動と同じ周期になる。実験で最初に立つのが a = 1 の舌、だから水面は半分の速さで揺れる。

減衰 β を入れると舌の付け根が持ち上がり、閾値 qc(a) ができる。最小は a = 1 ちょうどで、そこでの閾値は β = 0.01〜0.1 で qc = 2β(比 2.000・2.000・2.001・2.004)になる。減衰の 2 倍の変調があれば、駆動の半分の振動数のモードが立つ。

水の例を挙げる。表面張力 72.8 mN/m の深い水を 50 Hz で駆動すると、立つのは 25 Hz の波で、重力・表面張力波の分散 ω² = gk + σk³/ρ から波長 9.93 mm になる。重力の取り分が 25%、表面張力が 75% で、和がちょうど 1 になるのが分散の帳簿。20 Hz なら 23.7 mm(重力 66%)、200 Hz なら 3.6 mm(重力 4%)になる。

12 の波を足す

どの模様が立つかは非線形の問題で、ここでは解いていない。二周波の駆動で 12 回対称が立つという観察(Edwards と Fauve)だけ借りて、30° おきの 6 方向の定在波(往復で 12 の波)を同じ振幅で足した。位相をゼロにすれば模様は 30° 回転で厳密に不変(1e−12)になる。4 方向なら正方格子、6 方向(60° おき)なら六角格子で、こちらは周期をもつ。

違いは山の高さに出る。周期の模様は山の高さが全部同じ(4 方向 22 個・6 方向 21 個の幅が 1e−5 以下)になる。12 方向は山 36 個の高さが全部違う(幅 1.15)。4 方向・6 方向の単位ベクトルには整数の関係(e₀ − e₁ + e₂ = 0)があって位相が閉じるのに対し、12 方向の単位ベクトルは有理数の関係をもたず、山の高さは無限に種類がある。この「無限に種類がある」の内訳と、ドデカゴナル・タイリングとの関係は、かけ算第29号で開けた。

どう作ったか

Floquet
generators/faraday.js。1 周期 τ ∈ [0, π] を RK4 で 400 分割して基本行列を積み、跡と行列式から乗数の大きさを出す。舌の縁は a を二分法で 60 回回して求めた。閾値は q を二分法で 50 回回して求めた。
級数
Abramowitz と Stegun の 20.2.25(p.724)の b₁(q) = a₁(−q) の級数を q⁵ まで使った。a₁ は q を −q に替えて出している。
模様
f(x) = Σ cos(2π(ej·x − γj)) を格子に置き、8 近傍より高い点を放物線で詰めて山とする。等高線は marching squares を自前で書いた。
罠
舌の縁では乗数が重根(−1 が 2 つ)になるので判別式の符号が数値でぶれる。乗数は跡の半分で読む。山の高さの「同じ」は 1e−3 で見る(放物線の詰めに 1e−5 の誤差がある)。

出典と権利

数理
M. Faraday, Phil. Trans. 121 (1831) 299 は archive.org の写しで読んだ。確かめたのは §101・p.330 の「板の 2 回の完全な振動で 1 回繰り返す」と、§108・p.333 の「板の振動の 2 倍の時間で起こる液体の振動」である。T. B. Benjamin と F. Ursell, Proc. R. Soc. A 225 (1954) 505 は 2 か所で確かめた。p.505 の「Mathieu 方程式の系に帰着する」と、p.508 の式 (2.14) である。W. S. Edwards と S. Fauve, Phys. Rev. E 47 (1993) R788 は要旨で確かめた。見たのは「12 回の向きの秩序をもつ安定な定在波の模様」の一文と、4ω と 5ω を重ねた駆動である。Mathieu 関数の級数は Abramowitz と Stegun の p.724 にある。ここに書いた数は、すべてこのギャラリーで計算し直したものである。
身近
スピーカーの上の水の皿。洗面器を揺すったときの水面。
親戚
太鼓の節線(振動する面の模様)・ドデカゴナル(12 回対称のタイリング)・アンマン–ビーンカー(8 回対称)・船もカモも同じ V 字(同じ分散関係)
生成
generators/faraday.js(faraday.svg カード・faraday-book.svg 帳簿)

つながり: かけ算第29号(12 の波 × ドデカゴナル)・太鼓の節線・見取り図の発見93