かけ算第52号|雷文を色の帯にしてトンネルへ巻く × ハニカム × 和柄を版画画廊の写し方で巻く
雷文の帯を、角を保ったままふくらませる
雷文の色の帯を、今度は巻かずに、角を 90° に保つ写像(等角写像)で模様全体ごとふくらませた。角は保たれ、帯の幅は写像の伸び |F′| に反比例して場所ごとに変わった。ところが、絵の内側に「帯がいちばん太い点」は作れなかった。帯の幅の対数は調和関数なので、最大も最小も絵の縁に出る。真ん中をふくらませるには、真ん中で写像を折る(F′ = 0 の点を置く)か、角を捨てるしかない。カードは真ん中で折った絵である。
なにか
サイケデリックアートの図案では、模様が球のようにふくらんで見える組み立てがよく出てくる。第44号で作った雷文の色の帯(線からの L∞ 距離の等高線を藍・茜・山吹・生成で塗る)を、この「ふくらみ」で曲げてみた。特定の作品の構図は写していない。
絵の点を w(正方形 [−1, 1]²)、模様の点を ζ = F(w) と置き、絵の色を「F(w) での模様の色」にする。F が等角(正則で F′ ≠ 0)なら、小さな図形は回って拡大されるだけなので、帯の角は 90° のまま残る。写像は 3 つ使った。等角な写像は三次 F = K(w − 0.3w³)(臨界点 ±1.054 は絵のすぐ外)と二乗 F = K w²(臨界点が絵の中心)の 2 つである。比べるために、等角でないレンズ F = K w(0.25 + 0.75|w|²) も使った。模様は第44号の雷文と回(16 × 16 の升)で、鏡の軸 x + y = 16 の上の点 (8, 8) を写像の原点に、軸の向きを ζ の実軸に置いた。
見立ては 4 つ置いた。1 つ目は「等角なので帯の角 90° は保たれ、帯の幅は場所ごとに 1/|F′| に比例して変わる」。2 つ目は「帯の幅の比(色ごとの比)はどこでも同じ」。3 つ目は「鏡は、模様の鏡の軸が写像の対称軸と揃うときだけ残る」(第44号と同じ問い)。4 つ目は「ふくらみの中心で帯がいちばん太く、縁で細くなる。化けるのは縁から」。
角は 90° のまま、幅は 1/|F′|
帯の角は、模様の枠で +x と +y の辺が出会う所の 2 辺を長さ h だけ写し、絵の上の弦のなす角で測った。h = 0.1・0.05・0.025 のとき、4 点で 90° からのずれの最大は三次で 0.254°・0.127°・0.063°、二乗で 0.484°・0.241°・0.120° だった。h を半分にするとずれも半分になった。ヤコビ行列で出す h → 0 の角は、どちらも 90.000° だった。レンズでは弦の角のずれは h によらず約 42.6° で、ヤコビ行列の角は 79.96°〜132.54° に散らばった。1 つ目の見立ての角の部分は当たった。
帯の幅は、雷文の線の上の点から線に直交する向きへ絵の上をまっすぐ歩き、場の値が 0.25・0.5・0.75 になる所を二分法で探して測った。線から 1 以内にほかの線が来る所は除いた。線から 0.25 までの藍の半分は、式 0.25/|F′| と三次で最大 5.3%、二乗で最大 0.78% の差で合った。1 つ目の見立ての幅の部分も当たった。
2 つ目の見立ては近似でしか成り立たなかった。茜と山吹の幅の比は、二乗では 0.985〜1.015 だったが、三次では 0.840〜1.080 まで開いた。開いたのは臨界点に近い左右の縁である。帯を 3 本歩くあいだに |F′| がどれだけ変わるかの目安として、ε = (0.75/|F′|)·|F″|/|F′| を置いた。3 本の帯の幅と式の相対差は、どの点でも ε の 1.26 倍以下(二乗は 0.86 倍以下)だった。帯の幅の比が保たれるのは、帯の幅が |F′| の変わる長さより十分に細い所だけである。
鏡は、写像の対称と模様の鏡が噛み合う所だけに残る
F(e^{2iθ} w̄) = e^{2iβ} conj F(w) となる β があるとき、絵を向き θ の鏡で映すことは、模様を向き β の鏡で映すことと同じになる。だから、模様が ζ の枠で向き β の鏡を原点に持てば、絵の鏡 θ は残る。三次ではこれが成り立つのは e^{6iθ} = e^{2iθ}、つまり θ = 0° と 90° だけで、β = θ である。二乗はどの θ でも β = 2θ、レンズ(回転対称)はどの θ でも β = θ になる。
この予言と、式を使わない探索(絵の 400 点で鏡の前後の場の値の差の最大 E(θ) を 0.05° 刻みで調べ、E < 10⁻⁹ の向きを詰める)を 12 通りで突き合わせ、12 通りとも一致した。三次 × 雷文は、軸を揃えると鏡 1 本(0°)、10° 回すとなしだった。三次 × ハニカムは、揃えると 0° と 90° の 2 本、15° 回すとなし、30° 回すとまた 2 本になった。二乗 × 雷文は、揃えると 0° と 90°、10° 回しても 85° と 175° の 2 本が残った。原点を軸から 1 外すとなしになった。二乗 × ハニカムは 15° ごとに 12 本、レンズ × ハニカムは 30° ごとに 6 本だった。
3 つ目の見立ては、三次では当たり、二乗とレンズでは外れた。二乗とレンズはどの向きの鏡とも噛み合うので、模様の鏡の軸が原点を通りさえすれば、向きを揃えなくても鏡が残る。要るのは軸の向きではなく、軸が写像の中心を通ることだった。二乗では鏡の本数が模様の 2 倍になる。角が中心で半分に折れるので、模様の鏡のあいだの角も半分になる。
真ん中はふくらませられない
4 つ目の見立ての前半は外れた。帯の幅の対数 −log|F′| は、F′ ≠ 0 の所では調和関数(log|F′| = Re log F′)になる。調和関数は、円の上の平均が中心の値に等しく、内側に最大も最小も持たない。だから等角のままでは、絵の内側に帯がいちばん太い点を作れない。三次では、401 × 401 の格子で内側の極大も極小も 0 だった。帯がいちばん太いのは左の縁の中点 w = (−1, 0) で、幅は 0.5000 になる。いちばん細いのは隅の w = (−1, −1) で 0.02428、比は 20.59 だった。円の上の −log|F′| の平均は、2 つの円とも中心の値と 12 桁まで一致した。
例外は F′ = 0 の点(臨界点)である。二乗では中心 w = 0 で F′ = 0 になり、そこだけ幅が無限大になる。そのかわり写像は中心で 2 対 1 に折れ、中心のまわりの模様は 2 回ずつ写る。カードの八つ星は、模様の原点のまわりの生成の地が 2 回写ったものである。レンズは等角でないので、中心をふくらませられる。半径方向の帯の幅は中心で 0.1818、縁で 0.0182 と 10 倍違う。そのかわり角が崩れ、円板の中で角がいちばんずれるのは w = (−1, 0) で、90° が 43.6° になった。閉じた式 tan ψ′ = (λr/λt) tan ψ(λr と λt は半径方向と接線方向の伸び)は、ヤコビ行列の角と小数 3 桁まで合った。
4 つ目の見立ての後半「縁で細くなる」は、細い側だけが当たった。三次ではいちばん細い帯もいちばん太い帯も縁にある。第47号・第49号の意味で目の標本がどこで帯を化けさせるかは、この号では計算していない。
機械で分かる範囲と、目でしか分からない範囲
機械で確かめたのは、等角な写像で帯の角が 90° に近づくこと、帯の幅と 0.25/|F′| の差が ε で抑えられることである。12 通りの鏡の予言と探索の一致、三次の帯の幅が内側に極値を持たないことと平均値の性質、レンズの角の式も確かめた。
絵が球のようにふくらんで見えるか、二乗の八つ星がふくらみの頂点に見えるか、角の崩れたレンズのほうが自然にふくらんで見えるかは、人の目でしか分からない。
どう作ったか
生成器は generators/fret-bulge.js で、雷文とハニカムの距離の場は第44号の生成器(generators/fret-tunnel.js)をそのまま呼んだ。逆写像はニュートン法で求めた。カードと帳簿の絵は、1 画素を 3 × 3 に分けて 4 色の数を数え、その組ごとに混ぜた色(220 色のパレット)で塗った。
確かめていないこと。log|F′| が調和関数であることと最大値の原理は複素関数論のよく知られた事実だが、この号では教科書を開いて確かめてはいない(数値では平均値の性質と格子の極値で確かめた)。ふくらんで見えるかは人の目で確かめていない。三次の係数 0.3、レンズの 0.25 と 0.75、K の値は自分で選んだ値である。目の標本(第47号・第49号)と組み合わせた計算はしていない。メビウス変換やジューコフスキー変換など、ほかの等角写像は試していない。
出典
- 数理
- 帯の幅 0.25/|F′| と ε による差の目安、鏡の条件 F(e^{2iθ} w̄) = e^{2iβ} conj F(w)、レンズの角の式は自分で導き、数値で確かめた。この号で新しく開いた原典はない
- 親戚
- 雷文を色の帯にしてトンネルへ巻く・ハニカム・和柄を版画画廊の写し方で巻く・オオウチ図形をトンネルへ巻く
- 生成
- generators/fret-bulge.js(fret-bulge.svg ふくらませた雷文の帯・fret-bulge-book.svg 帳簿)