← ギャラリーへ

籠目

竹籠の編み目と、物性でカゴメ格子と呼ばれる格子は同じもの。3 方向の帯を互い違いにくぐらせる編み方は、全体をひっくり返すぶんを除いて一通りしかない。

生成り・淡い藍・藍の3方向の帯が互い違いに編まれ、三角形と六角形の穴が交互に開いた籠目文様
3 方向の帯を、どの帯に沿っても上下が交互になるように編んだ。三角形と六角形の穴が交互に開く。竹籠の編み目そのもので、日本では籠目紋という魔除けの文様でもある。

なにか

竹籠を裏から見ると、細い竹ひごが 3 方向に走り、互い違いにくぐり合っている。穴は三角形と六角形が交互に開く。この頂点と辺の並びは、物性で「カゴメ格子」と呼ばれる格子とぴったり同じである。名前も籠目から来ている。1951 年にこの格子を初めて論じた庄司一郎の論文が、「日本語で kagomé(竹の編み目の模様)と呼ばれる格子」と書いている。

格子として見ると、どの頂点にも辺が 4 本集まり、面は上向きの三角形・下向きの三角形・六角形の 3 種類しかない。6×6 の周期盤で数えると頂点 108・辺 216 で、辺は頂点のちょうど 2 倍。三角形 72 枚に六角形 36 枚で 2 対 1、V − E + F = 108 − 216 + 108 = 0 とトーラスのオイラー標数に合う。

編み方は本質的に一通りしかない

籠目の帳簿。骨格の数、編みの上下の解の自由度、反強磁性の基底状態の数、六角形に閉じた波の残差
骨格・編みの上下・フラストレーション・六角形に閉じた波の 4 つを、同じ格子の上で数えた。

籠を編むときは「どの帯に沿っても、くぐる・またぐ・くぐる・またぐ」と交互になっていてほしい。どこかで 2 回続けてまたぐと、その帯は浮いて抜けやすくなる。3 方向あるので、この注文が全部同時に満たせるかは自明ではない。

各頂点で「どちらの帯を上にするか」を 1 ビットの変数にし、帯に沿って隣り合う交差点で上下が入れ替わるという式を立てた。すべて排他的論理和の式になるので、GF(2) の掃き出しで解の有無と自由度が出る。3×3 から 6×6 まで、それに 4×6 と 3×5 の縦横が違う盤でも、いつでも解があり、自由度はどれも 1 だった。

自由度 1 は「全体をまるごとひっくり返す」ぶんだけである。つまり編み方は本質的に一通りしかない。竹籠がどれも同じ編み目に見えるのは、職人が同じ流儀を守っているからではなく、条件を満たす編み方が他にないからだった。

→ 織りの数理(繻子織りの飛び数)

→ 組紐と最大公約数(2 方向の帯の交差)

→ トゥルシェ・タイル(交差しない弧の輪)

三角形は、必ず 1 本を諦める

頂点に ±1 のスピンを置いて、辺の両端はなるべく違う符号にしたい(反強磁性)。三角形では 3 頂点すべてを互いに違う符号にはできないので、どの三角形にも同符号の辺が最低 1 本残る。これがフラストレーションと呼ばれる状態である。

2×2 の周期盤(頂点 12・辺 24・三角形 8)で 4,096 通りを全部試すと、いちばん低いエネルギーは −8 で、それを実現する配置が 450 通りあった。エネルギーの −8 は、三角形 8 枚がそれぞれ 1 本ずつ諦めて 8 本が同符号、残り 16 本が異符号という勘定と厳密に合う。そして450 通りのすべてで、どの三角形の破れもちょうど 1 本だった。2 本以上諦める配置は基底状態に 1 つも混じっていない。

3×2(頂点 18)まで広げると基底状態は 8,882 通りで、1 頂点あたりの log を取ると 0.5091 から 0.5051 へわずかに下がる。縦横を入れ替えた 2×3 でも同じ 8,882 通りで、格子の向きにはよらない。Kanô と Naya(1953)は、カゴメ格子の反強磁性のイジング模型が、三角格子と同じようにどの温度でも秩序を持たず、絶対零度でも有限のエントロピーを持つことを示した。ここで数えた基底状態の多さがその中身にあたる。無限系の値までは追っていない。

六角形のまわりだけで閉じる波

六角形の 6 頂点に沿って +1, −1, +1, −1, +1, −1 と置き、残りの頂点はすべて 0 にする。この状態に隣接行列を掛けると、六角形の上の頂点では隣 2 つがどちらも符号違いなので和が −2、六角形の外の頂点では隣 2 つが符号違いで打ち消し合って 0 になる。つまり H v = −2 v がそのまま成り立つ。

6×6 の盤の六角形 36 個すべてでこれを当てると、固有値はどれも −2.000000000000、残差は厳密に 0 だった。行列の対角化は一度もしていない。波が六角形 1 個の中に閉じ込められて外へ漏れないので、数値に頼らず紙の上の理屈だけで固有状態が書けてしまう。

局在した状態が格子の数だけ作れるということは、同じ固有値がその数だけ縮退するということでもある。太鼓の節線で見た縮退は形の対称性から来ていたが、こちらは対称性ではなく、波が閉じ込められる場所が格子の中にたくさんあることから来ている。

→ 太鼓の節線(縮退は対称性から来る)

→ ハニカム(六角形の格子)

→ 和柄の対称群(籠目文様が入る群)

どう作ったか

生成器は generators/kagome.js で、三角格子の単位胞に 3 頂点を置き、周期境界でつないでいる。辺の向きは、両端がどの副格子にいるかの組だけで決まるので、座標の差からではなくその組から引いた。座標の差で測ると、周期の縁で巻き回った辺の向きが 8.9° ずれて帯が切れてしまう。盤の大きさを 6 通りに変えて、編みの上下を決める式がどれも解けることを確かめてある。

出典

数理
格子の名前は I. Syôzi(庄司一郎), "Statistics of Kagomé Lattice", Prog. Theor. Phys. 6 (1951) 306 の p.306 による("called in Japanese kagomé (woven bamboo pattern)"。原文は bomboo と誤植)。同じ論文は p.308 で、この格子を教えてくれた伏見康治に謝辞を述べている。名づけたのが誰かは書かれていない。反強磁性のフラストレーションは M. R. Norman, arXiv:1604.03048 の p.1〜2(「2 次元の古典的な例は、角を共有する三角形でできたカゴメ格子」)、強束縛模型のフラットバンドは D. Leykam ほか, arXiv:1801.09378 の p.2(カゴメ格子はハニカム格子の線グラフで、Mielke 1991 の構成に入る)で確かめた。絶対零度に残るエントロピーは K. Kanô, S. Naya, "Antiferromagnetism. The Kagomé Ising Net", Prog. Theor. Phys. 10 (1953) 158–172 の要旨(「どの温度でも秩序を持たず、三角格子と同じく有限の零点エントロピーを持つ」)。値は本文の式で、そこは読んでいない。ここでは名前だけ借りて、性質は自分で作って測った
親戚
ハニカム・織りの数理・組紐と最大公約数・トゥルシェ・タイル・和柄の対称群・太鼓の節線
生成
generators/kagome.js(kagome.svg 編み・kagome-book.svg 帳簿)