和柄の上の唐草
亀甲・七宝・麻の葉の線で区切られた面に、蔓を 1 本ずつ敷いた。面の中で辺のまんなかを 2 つずつ結ぶ結び方を全部数え、どこまでも伸びる蔓がどれだけ巻くかを測った。周期の単位を縦横 2 倍にすると、七宝の上で 2 本の蔓がどちらも 1 巻き半まで巻いた。
なにか
規則は蔓を敷くと同じにした。辺のまんなかを出入り口にして、1 枚の面の中で出入り口を 2 つずつ組にし、交わらない曲線で結ぶ。どの出入り口にも両側の面から 1 本ずつ蔓が来るので、蔓は閉じた輪になるか、どこまでも伸びる道になる。ここでは伸びる道を唐草と呼ぶ。
床は和柄の線にした。蔓を敷くの床は周期しないタイリングだったが、和柄は周期する。周期の単位は小さいので、結び方を 1 つ残らず数えられる。窓を切る必要もなく、蔓は単位の中の行き先と格子の移動だけでたどれる。1 周して移動の合計が 0 なら輪、0 でなければ唐草である。
3 つの床
面の辺の数が奇数だと、出入り口を 2 つずつ組にできない。亀甲は正六角形だけの床で、出入り口は 6 つ、交わらない結び方は 5 通りある。
七宝は、収蔵品の和柄と同じく、正方格子の点に半径 1/√3 の円を置いた。隣の円とは重なってレンズができ、斜めの 4 つの円のあいだには隙間が残る。円の中のレンズ以外の所は弧 8 本で囲まれた面、隙間は 4 本の面になる。レンズは出入り口が 2 つしかないので、蔓はそのまま素通りする。結び方は単位 1 枚で 14×2=28 通りある。
麻の葉の線は 30°・30°・120° の小さな三角形を敷き詰めるので、そのままでは辺が 3 本で結べない。三角格子の辺を葉の主脈とみなし、その両側の三角形 2 枚を 1 枚の葉にした。葉は 60° と 120° の角をもつ菱形で、向きは 3 つある。結び方は葉 1 枚に 2 通りで、単位 1 枚で 8 通りになる。紗綾形は線が面を囲まないので、床にしなかった。
一様な結び方では、七宝の上だけがどれも唐草になる
はじめに、単位の中の面ごとに結び方を 1 つ選び、全部の単位に同じものを写した。亀甲の 5 通りのうち 3 通り、七宝の 28 通りのすべて、麻の葉の 8 通りのうち 3 通りで唐草が出た。割合は七宝 100%、亀甲 60%、麻の葉 38% で、面の辺が多い床ほど高い。
亀甲と麻の葉の唐草は、まっすぐな道か、120° ずつ左右に折れるジグザグだった。七宝の唐草は、8 辺の面と 4 辺の隙間をかわるがわる通り、同じ向きに 135°・225°・270° 曲がり続ける。七宝の 8 通りでは、八角形 2 枚と隙間 1 枚の小さな輪と唐草が、同じ絵に一緒に出た。
単位を広げると、七宝の唐草は 1 巻き半まで巻く
次に、周期の単位を縦横 2 倍にして、面ごとに別の結び方を選べるようにした。組み合わせは亀甲 625 通り、七宝 614,656 通り、麻の葉 4,096 通りで、これも全部数えた。輪の大きさ(通る弧の数)が 2 種類以上になる結び方は、亀甲で 22%、七宝で 52%、麻の葉で 62% あった。1 つの結び方の中の種類は、多くて 3 種類だった。
巻きは、同じ向きに曲がり続けた角度のいちばん大きいものとして測った。向かいの辺を結ぶ曲がらない弧が来たら、そこで数え直す。曲がらない弧をはさんでも続けて数えると、亀甲も 360° に届く。ただしその道は、180° の折り返しが直線をはさんで 2 つ続く雷文のような形で、渦にはなっていなかった。
数え直す測り方で、亀甲の唐草は 240°、麻の葉は 300° までだった。七宝では、12.5% にあたる 76,852 通りの結び方で唐草が 360° を超え、2,204 通りで 540° に届いた。表紙はそのうちの 1 つで、横へ伸びる 2 本の蔓がどちらも 540° 巻いては戻る。描いた茎の接線を細かくたどっても、巻きは 540° になった。
唐草らしさの物差し
Fuchigami は 2001 年の論文で、風呂敷の唐草の渦を調べている。p.39 では、渦の多くがつながって迷路のように見え、始まりと終わりを見つけにくいと書く。§4.2(p.40〜41)では、渦はどの向きにも伸び、左巻きと右巻きが混ざり、交わらず触れないと書く。続く特徴の 5 番目に、渦の巻きは 1 巻き(360°)から 1 巻き半で、2 巻きや 3 巻きは無いとある。
ここでは、この 1 巻きから 1 巻き半を唐草らしさの物差しに借りた。七宝の 540° は、Fuchigami の挙げた上限の 1 巻き半と同じ角度である。ただし、蔓どうしが触れないことや、枝分かれの決まりは、この規則では測っていない。
蔓を敷くの床と並べる
蔓を敷くの Penrose(Penrose の弧・置換 10 回)と Hat(結び方 148・置換 4 回)にも、同じ物差しを当てた。窓の縁に触れない輪だけを測り、一方向に曲がりきる輪は 360° になるので外した。Penrose の輪は 2,054 本で大きさは 9 種類、いちばん大きい輪は 635 弧ある。それでも同じ向きに曲がり続けるのは 288° までだった。Hat の輪も 9 種類で 2,015 弧まで育つが、曲がりは 330° までだった。
周期の床では、2 倍に広げた単位でも輪の大きさは 3 種類までで、いちばん大きい輪は 24 弧である。かわりに七宝の輪は、輪の中で 675° まで同じ向きに曲がる。見た 5 つの床の範囲では、輪の大きさの多さは非周期性から、渦の巻きは面の形から来ていた。
見立て
数える前に見立てを 5 つ決めた。1 つ目は、一様な結び方では、どの床でも輪の大きさは 1 種類か 0 種類、だった。当たりである。
2 つ目は、一様な結び方で輪と唐草が同じ絵に一緒に出ることはない、だった。七宝の 8 通りで一緒に出たので外れである。
3 つ目は、唐草になる結び方の割合は面の辺が多い床ほど高い、だった。七宝 100%、亀甲 60%、麻の葉 38% で当たりである。七宝は亀甲に近いと見込んでいたが、亀甲より高かった。
4 つ目は、単位を 2 倍に広げると輪の大きさが 2 種類以上になる結び方が出る、だった。3 つの床すべてで出たので当たりである。
5 つ目は、周期の床の唐草は 360° に届かない、だった。亀甲と麻の葉では届かなかったが、七宝で 540° まで巻いたので外れである。
どう作ったか
生成器は generators/karakusa.js で、床と数え方は tools/explore/karakusa.js にある。面の辺ごとに、まんなかの点と外向きの向きを持たせた。隣の面とは、まんなかの点を格子の座標に直して引き当てる。弧 1 本の曲がりは、入る向きと出る向きの差を ±180° に畳んで出した。七宝の面は縁が弧なので、縁の曲がりを足し合わせる別の出し方でも確かめ、同じ値になった。輪は曲がりの合計が ±360°、唐草は 1 周期で 0° になることを、全部の曲線で確かめた。絵の茎は、出入り口で辺に直交する 3 次の曲線にした。腕の長さは曲がる角度から決めて円弧に近づけ、葉は弧のまんなかに左右かわるがわる付けた。
確かめていないこと。単位は 2 倍までしか広げていない。亀甲だけ 3 倍(約 195 万通り)を数えようとしたが、今の数え方では回し切れなかった。Penrose と Hat は結び方を 1 つずつ、窓の中だけで測った。窓の縁まで抜ける曲線(Penrose 180 本・Hat 401 本)は測っていない。七宝の円の半径を 1/√2 にして 4 つの円を 1 点で会わせる描き方もあるが、どちらが伝統の描き方かは確かめていない。蔓どうしが触れないかどうかは、絵の上で見ただけである。
出典
- 唐草の渦
- K. Fuchigami「Analysis of the Spiral Pattern Karakusa」Journal for Geometry and Graphics 5(1)(2001)35〜43。p.39(迷路のように見える)、§4.2(p.40〜41・渦の特徴、巻きは 1 巻きから 1 巻き半)
- トゥルシェ・タイルの一般化
- K. Mitchell「Generalizations of Truchet Tiles」Bridges 2020 Conference Proceedings 191〜198。三角形(p.192・図 5)、六角形(p.192〜193・図 6)、アルキメデスの敷き詰め(p.193〜194・図 8)に弧を描く。p.194 で、並べ方は乱数で決めることが多いと書き、2 進数を符号にする並べ方を示す。輪になるか伸びるかを結び方ごとに数えてはおらず、和柄も出てこない
- 唐草の先例
- 電通・Qosmo「SHISEIDO KARAKUSA」(2020)は、トゥルシェ・タイルで唐草を描いた先例である。作り方の文書は見つからなかった
- Penrose の弧
- F. Flicker・S. H. Simon・S. A. Parameswaran「Classical Dimers on Penrose Tilings」Phys. Rev. X 10(2020)、arXiv:1902.02799。p.8〜9 の本文と p.10 の図 9(菱形に赤と青の弧を描く飾り)。比べた Penrose の床は蔓を敷くのもの
- 数理
- 床の作り方、結び方の数え上げ、輪と唐草の分け方、巻きの測り方、作品 194 の床との比べ方は自分で組んだ
- 親戚
- 蔓を敷く・和柄の対称群・トゥルシェ・タイル・麻の葉の平坦折り・ペンローズ・タイリング P3・Hat タイル
- 生成
- generators/karakusa.js(karakusa.svg 表紙・karakusa-book.svg 帳簿)。数値は generators/data/karakusa/facts.json に書き出した