← ギャラリーへ

かけ算第31号|ムカルナス × 回折の動物園

八回対称だが、アンマンの目盛りでは暗い

ムカルナスの平面図は正方形と 45° の菱形で埋まっていて、アンマン–ビーンカー(AB・8 回対称の準結晶)と同じ 2 枚でできている。ならば光を当てたら同じように光るのか。回折の動物園の物差しをそのまま当て、同じ八角形の窓で切った AB と正方格子を横に置いた。平面図の頂点 273 点は AB と同じ加群 Z[ζ₈] に全部乗る(残差 1e−14)。回折は厳密に 8 回対称で、正方格子は同じ窓でも 4 回のままだから窓のせいではない。だが最強の山でもコヒーレンスは 0.075(AB は 0.51)で、山は AB の目盛り πM の小さい点から 0.1〜0.4 離れ、AB が最も明るい点 π(1+√2) でムカルナスは 0.007 しかない。理由は内部空間にある。切り出し射影なら内部像は窓に収まる(AB は半径 1.26)が、ムカルナスの内部像は最大 4.9・平均 2.7 に散らばり、格子のように実空間に比例もしない。同じ目盛りに乗る、第三の型である。

生成りの地に藍の点で描いた回折像。8 回対称に並ぶ小さな塊と、八角形の輪のように連なる弧状の明るい帯
ムカルナスの平面図(8 段・八角形)の頂点 273 点の回折像(|q| ≤ 12)。点の大きさと濃さがコヒーレンス S(q)/N²。45° ごとに同じ景色が戻る。

なにか

8 方向の単位ベクトル e_k = (cos kπ/4, sin kπ/4) の整数結合の集合 M = Z[ζ₈] が、AB の頂点が乗る加群である。M の点 r = Σ n_k e_k に「角を 3 倍にした」ベクトル e_k* = (cos 3kπ/4, sin 3kπ/4) で r* = Σ n_k e_k* を対応させるのが星写像で、r* が内部像である。4 次元格子 Z⁴ をこの 2 組で埋めると基底は直交して長さが √2 になるので、双対格子は (1/2)Z⁴ になる。したがって M に乗る点集合の回折の山は πM(アンマンの目盛り)にしか立てない。しかも q = π·Σ m_k e_k では点ごとに e^{iq·r} = e^{−iq*·r*} が恒等式として成り立つので、S(q)/N² = |⟨e^{−iq*·r*}⟩|²、つまり回折の明るさは内部像の特性関数を q* で読んだものになる。内部像が窓に収まれば小さい q* で明るく、散らばれば暗い。この一行が、下のすべての数を説明する。

頂点は同じ加群、回折は別の景色

上段に 3 つの点集合(ムカルナス・AB・正方格子)の実空間と回折像、中段に内部像 3 枚と |r| 対 |r*| の散布、下段に恒等式の表と山の表
帳簿。①同じ八角形で切った 3 つの点集合と回折像 ②内部像(星写像)と実空間の半径との関係 ③πM の点での恒等式の表 ④山の表。

八角形の丸天井(辺 4√2・8 段)の平面図から頂点を拾うと 273 点になる。各点の座標を x = a + (b−d)√2/2、y = c + (b+d)√2/2 と分解すると、4 つの整数 (a, b, c, d) が残差 6e−15 で見つかる。全部が M に乗っている。同じ八角形(外接半径 7.39)で切った AB の頂点は 192 点、正方格子は 153 点で、これも M の点である。

回折はコヒーレンス S(q)/N² = |Σ e^{iq·r}|²/N² で測る。ムカルナスの最強の山は |q| = 9.22 の 0°・45°・90° と 45° おきの 8 方向にあり、45° 回した先の強度の比は 1.000、22.5° では 0.19 に落ちる。正方格子は同じ八角形の窓でも 45° の比が 0.02 で 4 回対称のままである。8 回対称は窓の形ではなく、平面図そのものの対称性である(丸天井は D₈ で組んだのだから当然でもある)。

だが明るさは違う。最強の山でも 0.075 にとどまる。AB は 0.51、格子は 1.00 だった。そして山の位置。AB の山は πM の小さい係数(|m| ≤ 3)の点に 0.03 以内で乗る(最強は (0,1,1,1) と (1,1,1,0)、|q| = π(1+√2) = 7.58)。ムカルナスの上位 5 つの軌道は、最寄りの πM の点から 0.10・0.16・0.21・0.33・0.43 離れている。山の間隔 2π/|q| は 0.68(0° 方向)と 0.94(22.5° 方向)で、これは段の間隔(角の方向の頂点は 1.08 と 0.77 が交互・平均 0.92)に近い。回折を決めているのは加群ではなく段である。

内部像が散らばっている

なぜ同じ加群なのに目盛りに乗らないか。内部像を見る。AB の 192 点の内部像は、辺 1 の正八角形(外接半径 1.3066)に全部収まる(重心から最大 1.26)。切り出し射影の定義どおりである。正方格子の内部像は実空間の写しで、|r*| = |r|(傾き 1・相関 1)になる。ムカルナスの内部像は最大 4.91・平均 2.67 に散らばり、実空間の半径との相関は 0.20 にとどまる。窓に収まらないから切り出し射影ではなく、比例しないから格子でもない。内部像の広がり(半径 4.91 の円窓)を窓にした模型集合なら、この八角形に 2,865 点が乗る。ムカルナスはそのうち 273 点、1 割しか使っていない。

恒等式で読み直す。AB の最強点 (1,1,0,−1)(|q| = 7.58)の内部像は |q*| = π(√2−1) = 1.30 になる。AB の窓(半径 1.3)の特性関数はここでまだ 0.50 あるが、ムカルナスの散らばり(平均 2.7)ではもう 0.007 に消えている。もっと |q*| の小さい点、(3,2,0,−2)(|q| = 18.3・|q*| = 0.54)までいくと、ムカルナスも 0.27 まで上がる。アンマンの目盛りで光るのは、内部像の広がりの逆数より小さい q* をもつ点だけである。直接計算した S(q)/N² と内部像から出した |⟨e^{−iq*·r*}⟩|² は 6 点 × 2 集合すべてで 1e−14 で一致する。

罠が 1 つある。πM は平面で稠密なので「山が πM に乗る」は、係数の上限を言わなければ空文になる。|m| ≤ 60 まで許せば、どの点も 0.01 以内に πM の点が来る。ここでは |m| ≤ 3 で測った。もう 1 つ、AB の内部像は多重格子の位相 γ のぶんだけ窓が原点からずれているので、広がりは像の重心から測る。原点から測ると 1.79 に見える。

続き: 出土板の実物では測れない

本物のムカルナスも第三の型か。作品120 で写真から座標化したタフテ・スレイマーンの出土板の頂点 115 点に、同じ物差しを当てた。座標化の格子は x と y で独立に a + m√2/2 を許す (Z + Z√2/2)² で、M はその指数 2 の部分格子(m と n の偶奇が揃うもの)。この格子の内部像は √2 を −√2 に取り替える共役で、M の星写像とは鏡映で同じになる。同じ箱 [0, 4.88] × [0, 7.17] に入る AB・平面図・正方格子と並べると、出土板の内部像は最大 16.1・平均 7.56 だった。平面図(2.49)より AB(0.83)から遠く、正方格子(2.50)よりも散らばる。

だがこれを「第三の型」の証拠にはできない。115 点のうち 58 点が M の外にあり、90 点が √2 の係数 4 以上を使う。座標 0.050253 は 5 − 3.5√2 と読まれていて、その内部像は 5 + 3.5√2 = 9.95 になる。実空間の 0.05 のゆれが内部像では 9.95、198 倍に拡大される。写真起こしの残差は 4 px(法 92 px の 4%)だから、内部像はゆれの写しになる。内部像で「乗る/乗らない」を言うには、係数の小さい格子点に 1% 以下で落ちる寸法の実測が要る。決着は実測待ちと記録する。

どう作ったか

点集合
generators/muqarnas-diffraction.js。ムカルナスは muqarnas.js の丸天井(policy alt)の胞と中間要素の頂点を重複なしで拾う(−0 と 0 を同じ鍵にする)。AB は ammann.js の頂点を、格子は Z² を、同じ八角形で切る。
加群の座標
√2/2 は無理数なので、x = a + m√2/2 の (a, m) は |m| ≤ 60 の走査で一意に決まる。b = (m+n)/2・d = (n−m)/2 が整数になる偶奇も確かめる。
回折
上半面を 0.05 刻みで走査して山の候補を拾い、山登りで詰める。同じ |q| の軌道は 1 つにまとめる。回転対称は山を回した先で S を直接評価する(回折の動物園と同じ・格子に依らない)。
模型集合の点数
|n_k| ≤ 14 の Z⁴ を総当たりし、実空間の像が八角形の中で内部像が円窓の中の点を数える。

検査

出典と権利

数理
切り出し射影と星写像は、Baake と Grimm, arXiv:1205.3633 の pp.9〜12 のとおりの構成である(de Bruijn, Indag. Math. 43 (1981) 39〜66 は TU/e のリポジトリの写しで p.39 を開いた)。回折の恒等式 e^{iq·r} = e^{−iq*·r*} はかけ算第28号で使ったもの。ここに書いた数はすべてこのギャラリーで計算した。
ギャラリー内
踏み面のない階段(作品120・平面図の出どころ)・アンマン–ビーンカー・回折の動物園(物差し)・1に届かない、いくらでも近づく(恒等式)。
生成
generators/muqarnas-diffraction.js(muqarnas-diffraction.svg カード・muqarnas-diffraction-book.svg 帳簿)

つながり: 踏み面のない階段・アンマン–ビーンカー・回折の動物園・消せない位相が明るさを決める(同じ加群の別の目盛り)・見取り図の発見98