トーラスの泉
ドーナツを斜めに切ると、切り口に円が 2 つ現れる。4 次元の球をすき間なく円で埋める Hopf の方法を 3 次元に写すと、この斜めの円が入れ子のドーナツの上にびっしり並ぶ。どの円も真ん中の穴をくぐって外側を回るので、噴き上がって外へこぼれる水に見立てて、ここでは泉と呼ぶ。
なにか
ドーナツの形をトーラスと呼ぶ。中心の円の半径を R、管の半径を r とする。トーラスを、中心を通って上下の面に 1 点ずつ触れる平面で切ると、切り口は半径 R の円 2 つになる。この定理は、1848 年の Nouvelles Annales de Mathématiques に Terquem の記事として載った。記事の注によれば、Villarceau が同じ年の 7 月に Société philomatique で述べた。この円を Villarceau の円と呼ぶ。
もう 1 つの材料は Hopf 束である。4 つの数 (a, b, c, d) で a² + b² + c² + d² = 1 を満たすものの集まりを 3 次元の球面 S³ と呼ぶ。Hopf 写像は S³ の点を、ふつうの球面 S² の点 (a² + b² − c² − d², 2(ad + bc), 2(bd − ac)) へ送る。S² のどの点にも、S³ の円が 1 本ずつ重なって写ってくる。この円をファイバーと呼ぶ。S³ を立体射影で 3 次元に写すと、ファイバーは 1 本の直線と、互いに絡み合う円になる。ここまでは Lyons の解説(2003)に書かれている。トーラスと Villarceau の円との関係は Lyons の解説には出てこないので、自分で計算して確かめた。
切り口の 2 つの円
中心を通る平面を傾けていくと、傾きが sin α = r/R になったところで、平面は上下の面に 1 点ずつ触れる。このとき切り口は、平面の中で中心から ±r ずれた半径 R の円 2 つになる。R : r = 3 : 1、2 : 1、1.5 : 1、5 : 1 の 4 通りで、2 つのやり方で確かめた。1 つは円の式をトーラスの式に入れる方法で、ずれは最大 3×10⁻¹⁵ だった。もう 1 つは、平面の中の 720 の向きごとにトーラスの式が 0 になる点を数値で探し、円に当てはめる方法である。見つかった 1,440 点はどれも 2 つの円のどちらかに乗り、ずれは最大 4×10⁻¹⁴ だった。2 つの円が交わる 2 点で、平面はトーラスに接している。
斜めの円は同じ角度で進むが、いちばん短い道ではない
トーラスには軸のまわりを回る平行円がある。見立ては「斜めの円は面の上をいつも同じ角度で進む」だった。当たりだった。平行円との角は円のどこでも α で、R : r = 3 : 1 なら 19.47°、2 : 1 なら 30.00° になった。1 周での角の揺れは 4 通りとも 3×10⁻¹³ 以下である。
角が一定なら、面の上のいちばん短い道(測地線)でもあるだろう、という見立ても立てた。これは外れた。平行円との角を θ、軸からの距離を ρ とする。回転面の測地線では ρ cos θ が一定に保たれる(クレローの関係)。3 : 1 のトーラスの上で測地線を数値でたどると、軸のまわりを 16 周するあいだ、ρ cos θ は 1×10⁻¹³ 以内で変わらなかった。斜めの円では θ = α で一定なので、ρ cos θ は ρ と一緒に (R − r) cos α から (R + r) cos α まで動く。3 : 1 では 1.886 から 3.771 になった。
どの点にも円が 4 本通る
トーラスの上の 1 点には、平行円、管を回る子午円、そして 2 つの向きの Villarceau の円が通る。切り口の 2 つの円は互いに鏡に映した向きで、軸のまわりに回せばどの点にも合わせられる。R : r = 3 : 1 のトーラスの 1 点で 4 本を作ると、どれもトーラスに乗り、点を通り、平面どうしの角は最小でも 12.1° で、4 本は別の円だった。
Hopf のファイバーは入れ子のトーラスの斜めの円
S² の上で同じ緯度 t の円を選ぶ。その上のファイバーを全部集めて立体射影すると、軸のまわりのトーラスになる。A = √((1 + t)/2)、B = √((1 − t)/2) と置くと、中心の円の半径は R = 1/B、管の半径は r = A/B で、r/R = A になる。t = −0.8、−0.5、0、0.5、0.8 の 5 通りで、ファイバーの点は 9×10⁻¹⁵ 以内でこのトーラスに乗った。t = 0 では R = √2、r = 1 で、t = 0.8 では R = √10、r = 3 である。
1 本 1 本のファイバーは、トーラスの中心を通る平面の上の、半径 R の円だった。円の中心はトーラスの中心から r 離れ、平面の傾きは arcsin(r/R) になる。つまり各ファイバーは、そのトーラスの Villarceau の円である。緯度を t = −1 に寄せるとトーラスは細って半径 1 の円になり、t = 1 に寄せると膨らんで軸の直線だけが残る。軸はどの円の平面ともトーラスの中心で交わり、そこは円の中心から r(R より短い)の点なので、軸はどの円板も貫く。これが冒頭の図の泉の形である。
半径 1 の球と直角に交わる
5 通りのトーラスはどれも r² = R² − 1 を満たした。内側の赤道の半径 R − r と外側の赤道の半径 R + r を掛けると 1 になる。軸を含む平面で切ると、トーラスの断面の円はどれも半径 1 の円と直角に交わる。半径 1 の球で反転すると、トーラスの点はトーラスに戻った(ずれ 1×10⁻¹⁴)。
ファイバーを同じ反転で写した円は、どのファイバーにもならない。Hopf 写像の値が円の上で最小でも 1.20 ばらつく。反転のあとに軸の向きの鏡映 x → −x を重ねると、1 本のファイバーに戻る(ばらつき 1×10⁻¹⁵)。鏡映は Villarceau の円の向きを入れ替えるので、反転はファイバーを、同じトーラスのもう一方の向きの円に写している。どのファイバーも球を 2 回横切り、その 2 点で写した円と交わる。
どの 2 本もちょうど 1 回絡む
S² の点を 40 組選び、そのうち 10 組は同じ緯度の 2 点にして、2 本のファイバーの絡み数を 2 つの経路で求めた。1 つはガウスの絡み積分で、各ファイバーを 600 点の折れ線にすると 0.9999 から 1.0000 になった。もう 1 つは図を平面に写して交差を数える方法で、上下の向きの符号を足して 2 で割ると 40 組すべてで 1 だった。同じトーラスの上に並ぶ 2 本も、1 回絡んでいる。
どのファイバーも、自分のトーラスの軸のまわりを 1 周し、管の中心の円のまわりも 1 周する。巻き数 (1, 1) の曲線である。巻き数を (3, 7) にした曲線が、結び目の不変量で扱ったトーラス結び目 T(3,7) になる。
どう作ったか
トーラスは (√(x² + y²) − R)² + z² − r² = 0 で書いた。切り口を数値で求めるときは、平面の中の半直線の上で式の符号が変わる区間を探し、二分法で詰めた。Hopf 写像と立体射影 (w, x, y, z) → (x, y, z)/(1 − w) は Lyons の解説と同じ形にした。ファイバーは、z₁ = a + ib、z₂ = c + id として (e^{iψ}z₁, e^{−iψ}z₂) と回して作り、Hopf 写像の値が 1×10⁻¹⁵ 以内で変わらないことを確かめた。交差で絡み数を数えるときは、折れ線を xy 平面に写し、交わる 2 本の線分の上下を z で比べた。
確かめていないこと。「どの点にも円はちょうど 4 本しか通らない」は示していない。4 本あることを作って確かめただけである。トーラスと絡み数は、緯度 5 通りと 40 組の有限の場合で数値を見たもので、証明ではない。Hopf の 1931 年の原論文は開けておらず、写像の形は Lyons の解説の著者版の注による。
出典
- 身近
- Terquem, "Théorème sur le tore de M. Villarceau (Yvon)", Nouvelles Annales de Mathématiques 7 (1848) 345–347(numdam の PDF で読んだ)。中心を通る平面が面に接するとき切り口が円錐曲線になること、Villarceau が 7 月に Société philomatique で円のトーラスについて述べ、のちに Olivier が一般の形を述べたことは、この記事の本文と末尾の注による
- 数理
- D. W. Lyons, "An Elementary Introduction to the Hopf Fibration", Mathematics Magazine 76 (2003) 87–98(arXiv:2212.01642 の著者版で読んだ)。Hopf 写像の式 (1)、立体射影の式 (4)、ファイバーの像が x 軸と yz 平面の単位円と互いに絡む円になること(Investigation (L)・(M))はこの解説による。H. Hopf, Math. Ann. 104 (1931) 637–665 は開けていない。トーラス、Villarceau の円、半径 1 の球、反転との関係は、ここで計算して確かめた
- 親戚
- インドラの網・シュタイナー鎖・結び目の不変量・組紐と最大公約数・結ばれた輪・形の定数と対数の写像
- 生成
- generators/torus.js(torus.svg 入れ子のトーラスとファイバー・torus-book.svg 帳簿)