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かけ算第35号|純正律の格子 × 切り出し射影

音階に光を当てると、平均律が出る

純正律の音は 2a·3b·5c·7d·11e という整数比でできている。log を取ると、音高は素数の対数の整数結合になる。これは非周期タイリングの切り出し射影そのものである。格子は素数の指数の Zd、物理空間は 1 次元(log 周波数の円)、窓は odd-limit(Partch のトナリティ・ダイアモンドが窓の実物)。だから回折の動物園とかけ算第28号の道具がそのまま音階に当たる。当ててみた。射影は単射(=素因数分解の一意性)だから違う整数比が同じ音になることは決してないが、像は円周で稠密で、いくらでも近づく。その「近づいた分」がコンマで、最小のコンマ × (2N+1)d が N によらないことから内部空間の次元 d が読める。純正 5 度を積んだ音階の段は 3 距離定理で高々 3 種類、2 種類になる n は 2・3・5・7・12・17・29・41・53・94 で、これは連分数の分母と中間分数=歴史上使われた平均律そのものである。そして回折を見る。コヒーレンス S(m) の山が立つ m が m 平均律で、山の高さは閉じた形 (sin πNε / N sin πε)² に 2e−14 で乗る。ε はその平均律のコンマで、m = 12 では 23.460 セント=ピタゴラスのコンマちょうど。1 には決して届かない。

生成りの地に、53 重の同心円。各環に純正 5 度を積んだ音階の点が藍で並び、段が 2 種類になる環だけ茜。下に回折の櫛が並び、12・41・53 の山が高い
上: n 番目の環に「純正 5 度を n 回積んだ音階」を置いた(n = 1…53)。段が 2 種類になる環(n = 2・3・5・7・12・17・29・41・53)だけ茜。下: 12 音音階の回折で、山が 12・41・53・94・106 に立つ。

なにか

音高を log₂ で測り、オクターブ(= 1)で還元する。純正 5 度は α = log₂(3/2) = 0.5849625、純正長 3 度は β = log₂(5/4) = 0.3219281 である。純正律の音はすべて b·α + c·β + d·log₂(7/4) + … という整数結合で、これは格子 Zd を 1 次元の円に射影したものである。射影は単射で、証明は素因数分解の一意性そのものである。Σni·log₂pi = 0 は Πpini = 1 と同じことで、それはすべての ni が 0 のときしか起きない。だから違う整数比が同じ音になることは決してない。

ところが像は円周で稠密である。だからいくらでも近づく。近づいた分が音楽でコンマと呼ばれてきたもので、5 度を 12 回積んだ余りがピタゴラスのコンマ 531441/524288 = 23.4600 セント、長 3 度 4 つと 5 度 4 つの食い違いがシントニックのコンマ 81/80 = 21.5063 セントになる。かけ算第28号で「1 に届かない、いくらでも近づく」と書いたのと同じ構造が、音の側にある。

コンマの落ち方が内部空間の次元を測る

上から格子と円への射影、内部空間の次元の表とコンマの表、段の表、回折の櫛と閉じた形の表、Partch 43 音の回折
帳簿。①格子(素数の指数)→ 円(音高)②最小コンマ × (2N+1)d とコンマの表 ③段(3 距離定理)と複雑さ ④回折と閉じた形・1 に届かない ⑤Partch の 43 音と 72 平均律。

指数の絶対値を N までに制限すると、点は (2N+1)d 個ある。それが 1 オクターブ(1200 セント)に散るので、いちばん近い 2 点の隙間は 1200/(2N+1)d の程度になるはずである。つまり最小のコンマに (2N+1)d を掛けたものが N によらず 1200 セント程度に留まるなら、その d が内部空間の次元である。測ると、生成元が 3 だけ(d = 1)で積は 587〜1895、3 と 5(d = 2)で 565〜2012、3 と 5 と 7(d = 3)で 526〜3014 になる。どれも 500〜3000 に収まる。指数を 1 減らすと 353 以下に潰れ、1 増やすと 4732 以上に走る。かけ算第29号で「内部空間は 4 次元でなく 2 次元」を密度の伸び方で測ったのと同じ型の物差しである。

段が 2 種類になる n が、歴史上の平均律だった

純正 5 度を n 回積んで音高順に並べると、隣り合う段(音程)は 3 距離定理により高々 3 種類にしかならない。2 種類になる n を n ≤ 120 で全部拾うと 2・3・5・7・12・17・29・41・53・94。α の連分数は [0; 1, 1, 2, 2, 3, 1, 5, 2] で、収束分数の分母は 1・1・2・5・12・41・53・306・665。残る 3・7・17・29・94 は中間分数である。5 音音階・7 音音階・12 音・17 音・53 音が並ぶ。実際に使われてきた分割が、全部ここに出る。

12 音のときの 2 種類は 90.225 セント(リンマ 256/243)と 113.685 セント(アポトメ 2187/2048)で、白鍵と黒鍵の段そのものである。53 音のときの 2 種類は 19.845 と 23.460 で、後者はピタゴラスのコンマである。段の語の複雑さ p(k)(長さ k の相異なる切れ端の数)を数えると、41 音でも 53 音でも k ≤ 10 まで p(k) = k + 1(語が有限なので k が音数に近づくと頭打ちになり、12 音では k ≤ 5 まで)。フィボナッチ・ワードと同じ Sturmian、つまり非周期であるための最小の複雑さをぴったり達成している。5 の指数も振った 5-limit の集合(153 音)では段が 6 種類になり、p(k) = 6・15・27・37・46・55 と伸びる。生成元が 2 つになると Sturmian ではなくなる。

回折の山が、平均律だった

音階を円周上の点集合と見て、コヒーレンス S(m) = |Σe2πimx|²/N² を測る。これは回折の動物園で「格子に乗っているか」を測った物差しと同じで、S(m) = 1 なら全点が m 等分の格子にぴったり乗っている。純正 5 度を 12 回積んだ音階で測ると、山は m = 12(0.8326)・41(0.8778)・53(0.9957)・94・106 に立つ。12 平均律・41 平均律・53 平均律である。

等差の鎖なので閉じた形が出る。ε = ‖m·α‖(m·α と最寄りの整数との差)として S(m) = (sin πNε / N sin πε)²。直接和と閉じた形は 7 通りの m で 2e−14 まで一致する。そして ε の正体は「5 度を m 回積んだときの余り」、つまりその平均律のコンマである。m = 12 では ε = 23.460 セント=ピタゴラスのコンマちょうど。なぜ鍵盤は 12 個かが連分数から出した 12・41・53 が、ここでは回折の山として独立に出た。2 経路である。

1 には届かない。m ≤ 50 での最大は 0.877758(m = 41)、m ≤ 200 で 0.995738(m = 53)、m ≤ 1000 で 0.999998(m = 665)、m ≤ 50000 で 0.9999999(m = 31867)。記録を更新する m は連分数の分母 1・2・5・12・41・53・306・665 そのものである。S(m) = 1 が起きたら α が有理数になってしまうので、決して起きない。

Partch の 43 音は、窓と隙間埋めでできている

Harry Partch の 43 音音階(『Genesis of a Music』1949。原著は貸出制限で開けず、43 音とトナリティ・ダイアモンドの 29 音は Hasegawa 2013(McGill 大学)の紹介で確かめ、29 は自分でも数えた)を同じ物差しに載せた。43 音のうち 29 音は odd-limit ≤ 11、つまり 11-limit のトナリティ・ダイアモンドの中にある。ダイアモンドは奇数 1・3・5・7・9・11 の比を 6×6 に並べたもので、36 マスが重複して 29 音になる(1/1 = 3/3 = 5/5 = 7/7 = 9/9 = 11/11、1/3 = 3/9、3/1 = 9/3)。残る 14 音(81/80・33/32・21/20・16/15・32/27・21/16・27/20 とその転回)は窓の外である。

外の 14 は何をしているか。ダイアモンド 29 音の隙間を測ると、中央値 31.8 セント・最小 14.4・最大 150.6 になる。外の 14 が入る隙間は 49・53・63・151 セントで、全部が中央値より大きい。うち 8 音は最大の 150.6 セントの隙間に入る。窓の外の音は、窓が空けた大きな穴を埋めるために足されていた。

43 音の回折も測った。m ≤ 100 でいちばん高い山は m = 72(0.302)=72 平均律で、ダイアモンド 29 だけに絞ると 0.600 まで上がる。72 平均律は 11-limit を全部 3 セント以内で出す(5 度 −1.96・長 3 度 −2.98・7/4 −2.16・11/8 −1.32)。いっぽう 12 平均律は 5 度こそ −1.96 だが、7/4 を 31.17、11/8 を 48.68 セント外す。Partch が 12 を捨てた理由が、数として出てくる。

罠が 2 つある。①「山が m に立つ」は m の上限を言わないと意味がない。43 音を m ≤ 300 まで見ると最強は m = 270(0.686)で、72 ではない。小さい m での最強が 72 だ、と範囲つきで言う。②コンマの表は比を手打ちせず指数から組み立てる。531441/524288 のような数は写し間違えても気づけない。

どう作ったか

格子とコンマ
generators/ji-lattice.js。指数ベクトルを総当たりし、オクターブ還元した音高が 0 に最も近い点を探す。比は指数から組み立てる。
段
音高順に並べて隣との差を取り、小数 6 桁で種類を数える。語の複雑さは長さ k の切れ端を Set に入れて数える。
回折
S(m) = |Σe2πimx|²/N² を直接和で計算した。閉じた形は Dirichlet 核から出した。連分数は自前(収束分数の分母を漸化式で)。
カード
n 番目の環に n 音を置く同心円で描いた。段が 2 種類の環だけ茜にした。下の櫛は 12 音音階の S(m) である。

検査

出典と権利

数理
切り出し射影は de Bruijn (1981) 以来の標準的な構成。3 距離定理は Steinhaus の予想として出され、1950 年代に Sós・Surányi・Świerczkowski らが独立に証明した(Marklof と Strömbergsson, arXiv:1612.04906 の p.1)。Partch の音階は上に書いたとおり Hasegawa 2013 の紹介で確かめた。72 平均律の 11-limit の近さは、権威ある資料では確かめていない(自分で計算すると誤差は 3.91 セント以内)。ここに書いた数はすべてこのギャラリーで計算した。
ギャラリー内
なぜ鍵盤は 12 個か(連分数の側・この作品の親)・和音のモアレ(協和は粗さ)・1 に届かない、いくらでも近づく(同じ恒等式)・フィボナッチ・ワード(Sturmian)・回折の動物園(物差し)。
生成
generators/ji-lattice.js(ji-lattice.svg カード・ji-lattice-book.svg 帳簿)

つながり: なぜ鍵盤は 12 個か・フィボナッチ・ワード・1 に届かない、いくらでも近づく・八回対称だが、アンマンの目盛りでは暗い(同じ回折の物差し)・見取り図の発見102